
全国の自治体が「人手不足」に喘ぐ中、愛媛県伊予市では一つの注目すべき変化が起きている。インドネシアから愛媛県への人材受入れの支援をしているJAPANNESIA㈱の取り組みは、単なる人材紹介業としてだけではなく、地域の企業、高校、大学、行政、そして住民を巻き込み、多文化共生を実現させている。地方創生モデルとして成功を治めているその具体的な手法と成功の要因を、詳細に紐解いていく。
起業以前、愛媛のトヨタ販売者の整備士だった上田氏はJICA(独立行政法人国際協力機構)と所属企業による「草の根技術協力事業」の一環として、長年企業がインドネシアに寄贈してきた救急車・消防車の整備士を育成するためのプロジェクトを任された。この事業を遂行するため2016年7月から約2年間、自動車整備技術の向上を目的としてインドネシアへ派遣されたことが人材紹介業へ繋がる原点となっている。
現地では、自動車整備の職業訓練校設立から関わり、カリキュラム作成や日本語教育なども行ったという。その中で彼が目の当たりにしたのは、世界第4位の人口を誇るインドネシアの「就職難」だった。そこには技術を習得しても就職に苦しむ若者たちの現実があった。その一方で、上田氏の故郷・愛媛県では「労働力不足」が叫ばれている。「この両国の課題を、自分が架け橋になることで解決できるのではないか」。そこから、2022年の独立・起業へと繋がった。

事業開始当初、地元企業からは国民の9割近くがイスラム教徒であるインドネシア人に対し、「イスラム教のお祈りの場所」や「断食への対応」といった宗教的ハードルへの対応がとても高いという声が多かった。上田氏は、不安を取り除くため、「彼らは日本の働き方に合わせる適応力が非常に高い」という事実を、自身の経験をもとに一社一社丁寧に説明した。
実際、取り組みが動き始めると上田氏の弁だけでなく、インドネシアの方の実直な勤務態度が、何よりの証明となった。口コミで評判は広がり、今では介護・外食産業を中心に49名(R8.3月には53名予定)が愛媛県内で活躍している。当初の不安は、今や「彼らなしでは現場が回らない」という信頼へと変わった。
海外からの人材が地域に定着するためにとても重要な要素がある。それは職場以外の「居場所」がちゃんとあることだ。JAPANNNESIAの事業で、その核となっているのが、多文化交流施設「UMI」である。上田氏の知人のつてで空き家をお借りし、2年前から上田氏や地域で働くインドネシア人、地域住民など自分達の手で改修を始めた。
この施設名「UMI(ウミ)」には、イスラム教の共通言語であるアラビア語で「お母さん」という意味がある。また、伊予市は「海」にも恵まれている。これらの理由から、地域住民やインドネシアの人々、皆でアイデアを出し、多数決の結果、満場一致で「UMI」に決まった。多様な人々が関わり、それぞれの想いを込めて名を付けたこの場所は、生まれた瞬間から「みんなの拠点」となった。
本施設はインドネシアに限らず、伊予市内に住む色々な国や地域住民の交流の拠点となってほしいと語り、今では、月1回は交流イベントを実施している。
この活動が広がり、最近では市内の高校との料理教室や保育園での文化体験、伊予市からの年4回にわたるイベント業務委託など具体的な連携プロジェクトを次々と生み出す磁石となっている。


「この事業で最も重視しているのは、インドネシアの業務パートナーや愛媛県の受入企業との価値観の一致です。コストなど単なる収益性の視点からではなくインドネシアの人々を一緒に働く仲間として本当に大切にしてくれるかどうか。まずは彼らの幸福が最優先です」と上田氏は強く語った。
今後の目標は、愛媛県内に「UMI」のような拠点を複数設置し、県内に住む約1.6万人の外国人全体へと支援を広げることだ。
上田氏は続けて、次のような思いを明かした。
「給与以外の魅力、例えば人間関係や地域の温かさといった『愛媛ブランド』をインドネシアに発信し、選ばれる地域になりたい」
それは、人材の獲得競争という側面だけでなく、愛媛県に住む全ての人が、文化の違いを尊重し、共に豊かに暮らせる社会を目指すという宣言でもあるだろう。
このブレない軸が、結果として関わる全ての人からの信頼を得ることができ、行政からの事業受託や包括連携協定の検討へと繋がる、好循環を生み出している。

JAPANNNESIA㈱の取り組みは、他の地域でも応用可能な地方創生のヒントが詰まっている。
自地域が抱える人材不足や空き家資源といった課題を、海外や他地域が抱える就労機会や学びの場の不足と結び付けることで、双方にとって価値のある解決策を生み出している。単独では解決が難しい課題を「掛け合わせる」ことで、新たな需要と役割を創出する発想が特徴である。
2.伴走型の信頼構築
受け入れ前には、生活や就業に対する不安を丁寧に汲み取り、情報提供や相談対応を重ねることで心理的ハードルを下げている。さらに受け入れ後も継続的なフォローを行い、小さな成功体験を積み重ねることで、本人・地域双方に信頼が蓄積され、取り組みが持続的に広がる仕組みを構築している。
3.プラットフォームの創出
空き家などの地域資源を活用し、人材育成や交流、実践の拠点となる「場」を整備することで、高校・大学・行政・民間など多様な主体が関与できる環境をつくっている。この共通基盤があることで、そこから新たなプロジェクトが生まれ、地域活動の幅と深みが広がっている。
日本に働きに来るインドネシア人や地域で暮らす外国人と共に地域の未来を創る「パートナー」として向き合うこと。上田氏の挑戦は、多様性こそが地域の最大の強みとなる、新しい時代の地方創生のあり方を力強く示しているだろう。


●JAPANNNESIA㈱ 愛媛県伊予市宮下1191番地6
取材・文/村畑 茄那(一般財団法人 地域活性化センター)