
地方や地域にある問題や困りごと。こうした課題が、新たな価値創生につながることがある。また、各自が取り組んでいる内容や情報を他者や他業界へシェアすることで、協働や共創できることが見つかるかもしれない。
渋谷にあるSHIBUYA QWS(渋谷キューズ)内のスクランブルホールでは、地域課題を突破する新たなビジネスの芽を披露する『QWS LOCAL CONNECT ~自治体推薦イノベーターピッチ&エキスポ~』が開催された。

SHIBUYA QWSとは、渋谷スクランブルスクエア15階に位置する共創施設。企業や自治体、大学などが同じ会員として参画し、年齢や性別、専門領域の異なるさまざまな「問い」を持った人たちが同所に集い、世代や立場や領域の垣根を越えて交流しながら新たな価値創造を目指す。SHIBUYA QWSという名称は「Question with sensibility(問いの感性)」の頭文字。物事の本質を探究し、常に問い続けることが、新しい価値につながる原点になると考えている。
今回のイベントは、地域課題解決に取り組む地元企業やスタートアップなど地元にゆかりのある団体(イノベーター)を自治体が推薦し、取り組みを紹介することで参加者と共に新たなビジネスアイデアや共創の可能性を見つける場を提供するもの。自治体と、自治体が推薦する地域課題解決に取り組む企業・スタートアップなどのイノベーターがその活動を発表した。

登壇したのは、三重県、山形県酒田市、大分県中津市、京都府福知山市、長野県長野市、熊本県熊本市の6自治体と、それぞれの地元で活躍する精鋭イノベーター。「日本の5年後、10年後」の課題を解決する独創的なプロジェクトが次々と発表された。今回はその一部を紹介する。

山形県酒田市は人口約9万3000人、県の日本海側に位置する市。江戸時代に北前船を用いて、京都などさまざまな寄港地との交易を行った背景がある。そのため、酒田舞娘(さかたまいこ)や傘福(かさふく)などの上方文化が今も残る。主要産業は製造業だが、近年IT企業の進出が進んでいる。また県内唯一の国際貿易港があり、クルーズ船などの寄港地にもなっている。
同市には『産業振興まちづくりセンター36(サンロク)』があり、『人と人、企業と企業、人と企業をつなぐ』というコンセプトを掲げ、市内事業者の事業拡大や課題解決を支援している。令和6年度からSHIBUYA QWSのパブリックメンバーの枠を活用して東京に常駐するメンバーもおり、都内で酒田市のPRを行っている。地域外のネットワークを酒田市につなぎ、“関係人口”を創出するための活動に取り組む。そんな酒田市が推薦するイノベーターが、酒田市で花文化の普及に尽力さしている『Lotus Garden』だ。

Lotus Gardenを主宰するフラワーアーティストの畠山秀樹氏が提唱するのは、フリーズドライ技術を駆使した『Zero Flower(ゼロフラワー)』。またの名を『Timeless Flower』というこの花は、薬品を使わず、生花のような造形美を保ったまま、時間とともにセピア色へと変化していく。

「僕たちは山形県の酒田市という庄内の方で花屋さんを始め、23年目になります。ふるさと納税や、フラワーレッスンなどで(花と人々が)文化的につながる活動を行っています。僕たちの事業は、東京からの経験や新しい情報を地方に配信し、酒田市の生産者さんたちの花を東京の方につなぐこと。『Five Petals(ファイブ・ペタル)』と呼んでいますが、“産地・市場・アート・レッスン・ネット販売”ということで、5つの内容で花の普及に努めております」

畠山氏は『Zero Flower(ゼロフラワー)』について、「僕たちは、フリーズドライで花にすることに着目しました。水がいらない、そして薬品が着色をしていない、そして雑菌が出ないということで、花を病院などへ持っていく場合の配慮も考えています」と説明。「普通のドライフラワーは萎んでいきますが、Zero Flowerは花の形や茎の造形美がそのままで残ります。なので『Timeless Flower(タイムレスフラワー)』と呼んでおり、時間経過を楽しむことができます」と語った。

「自分たちの記憶のように、一番美しいところからだんだんセピア調に変わっていく。一番美しい瞬間から少しずつ色褪せていく過程を愛でる文化を作りたい」と畠山氏。
実際にSHIBUYA QWSのサロン内にも展示されているZero Flower。茎までしっかりフリーズドライで加工されているので、ドライフラワーのように吊るして飾るのではなく、グラスや花瓶などにさして楽しむことができる。

Lotus Gardenは酒田市の豊かな花生産者と東京を繋ぎ、新たな花文化の普及に努めている。
長野県長野市は、県北部に位置する人口36万人の県庁所在地。門前町の善光寺や、長野オリンピック開催地などで知られている。都市にありながら、30分程度で大自然に触れられる立地で、企業の実証フィールドや移住地としても人気。食材も豊富で、りんごやそば、えのき、おやき、味噌、しょうゆ、日本酒なども有名だ。

長野市イノベーション推進課では、経済施策として中小企業を中心に支援している。特にスタートアップ支援に力を入れており、スタートアップも含め長野市の企業を連れてSHIBUYA QWSで月1回の共創イベントも開催している。
そんな長野市が推薦するイノベーターが、NAGANO Naorai株式会社。長野のお酒を使って製造される「新しいお酒のジャンル」を提供している。

NAGANO Naorai株式会社の亀田望さんは、無類のお酒好き。冒頭、「私の悩みは、『もうこの世のお酒をすべて飲み尽くしてしまったのではないか』ということ」と会場を笑わせると、「そんな時に出会ったのが、『浄酎-JOCHU-(じょうちゅう)』というお酒でした。私は『まだ知らないお酒がこの世にあったのか』と非常に心からワクワクをしました。今日はそんな『浄酎-JOCHU-』をご紹介させていただければ」と語った。

「NAGANO Naoraiは多様で豊かな日本酒文化を引き継ぐため、『浄酎-JOCHU-』という、日本酒を低温浄溜したお酒を生産しております。日本酒の酒蔵数は、4000か所あったところが過去40年間で約1200か所まで減少してしまっています。このような状況の中で、私たちは酒蔵さんと連携し、贅沢にも日本酒そのものを原材料として仕入れています。その仕入れた日本酒を、NAGANO Naoraiの『低温浄溜』という特許技術を用い、『浄酎-JOCHU-』というサケ、スピリッツと、その過程で出る副産物を活用した『うまみの』という発酵調味料を生産しています」
日本酒を高温で蒸留(浄溜)すると、日本酒の香りや旨味は損なわれてしまう。しかし特許技術の『低温浄溜』では、日本酒が変性しない40度以下の低温での浄溜を可能に。日本酒が持つ豊かな味わいや香りを、そのまま凝縮することに成功した。

Naoraiは2015年、広島の呉市で創業。2025年には石川・能登に2軒目の浄溜所となる『NOTO Naorai』を設立。2026年には『NAGANO Naorai』として、『善光寺浄溜所』を建設中だ。今年の夏には『浄酎-JOCHU-』の販売も開始される予定。

「NAGANO Naoraiは長野市の認定補助事業として認められており、今は『企業版ふるさと納税』にもチャレンジしております。ご協力いただいた方には、一般販売に先行して試供品を贈呈することも考えています。我々は長野の伝統を継ぐ酒蔵とともに、“日本酒の文化”を発信するということを目指しています。新たな日本酒の可能性を体感していただければ」
伝統的な日本酒文化を守り抜くために生まれたNAGANO Naorai。新ジャンルのお酒で酒蔵の危機を救う。
大分県中津市は、大分県の北西端、福岡県との県境に位置する人口約8万1000人の都市。旧1万円札の顔としても知られる福沢諭吉が育った城下町で、「独立自尊」の精神は今でも市民の誇りとして息づいている。同時に九州屈指の産業都市でもあり、自動車、半導体関連産業の集積により、製造品出荷額は2019年に大都市福岡市を抜き、九州第5位を記録。経済的にも力強い街といえる。

その一方で、中津市の持続可能性を考える上で向き合うべき現実もある。人口動態に深刻な男女のギャップが存在していることだ。進学や就職を機に、20代前半で多くの女性が市外へ流出し、その後も現役世代の転入は男性が中心となっている。「女性がキャリアを築くための仕事の選択肢」が不足している現実があり、「住みたい街」なだけでなく、「働きたい街」への変化が求められる。
そこで中津市は、「女性が自分らしく挑戦できる環境を整えること」が地域づくりの鍵となると考え、女性の起業支援に注力している。1つは2026年で8回目を迎える起業家育成プログラムの『arch』。もう1つは初期投資を支える最大100万円の女性創業起業支援補助金だ。

この支援を活用し、新しい産業の形を体現しているのが中津市の推薦イノベーターでもある、『耶馬渓(やばけい)ジビエ麗鹿(れいか)』だ。代表を務めるのは、江渕麗葉さん。20代前半という若さで、あえて中津での起業を選択した。中山間地域の鳥獣被害に着目し、未利用資源をペットフードへ変える独自の仕組みを構築している。

江渕さんは、「猟師、捌き師としてジビエ事業と地域の食べ物の魅力を発信する事業をしています」と自己紹介。
「私は紅葉と奇岩の景勝地・耶馬溪という場所で育ちました。川や山を往復する幼少期で、農家の祖父のもと、卵も米も野菜も肉も自家生産で手に入る環境が当たり前でした。大学進学で神戸に行き、“スーパーでしか食料が手に入らない”という当たり前のことにびっくりしました。『スーパーから食料がなくなった時、自分が無事な保証はない』と思い、食料生産について学びたいと、大学を休学して地元に戻りました」
その後、和牛農家でインターンをしたり、祖父の農業を手伝ったりする中で狩猟とジビエに出会う。「狩りから解体まで全部してみたい」と狩猟免許を取得し、縁があってジビエ処理の会社で働くことになった。

「ジビエは常に廃棄と隣り合わせです。狩猟された動物のうち、食用として処理されるのは10頭に1頭で、それ以外は山に捨てられています。また動物の体重の約7割は、骨や皮、内臓などの肉ではない部分です。これを見て私は『宝のゴミじゃん』と思い、捨てられるものを買い取って、ペット用のジャーキーとしてアップサイクルする事業を、会社に勤めながら始めました」
江渕さんは、食用にならない骨や内臓を買い取り、ペット用ジャーキーとしてアップサイクル。2025年に独立して狩猟から加工まで一貫して行っている。「売り先がないから安くしか売れない」と悩む処理場、「ジビエを扱いたいが、どうすればいいか分からない」と困っているレストランなど、麗鹿が仲介することでそれぞれを繋ぎ、ジビエ業界の課題解決に貢献している。

「処理場からレストランへの食肉仲介事業においても、可能な限り処理場からの仕入れ額を上げ、処理場の収入が増えるようにしています。現在は狩猟から解体、加工販売まで全てを自社で行っています。高タンパク低脂質で鉄分やビタミンが豊富なジビエですが、『栄養があるから』ではなく『美味しいから』食べるジビエを当たり前にしたいのです」
こうした取り組みにより、麗鹿は安く仕入れることができ、処理場はゴミ(処理)が減り、フードロスが減ることで環境にも配慮し、消費者はジビエ食品をリーズナブルに購入することができる。仕組みを整え“四方良し”を実現することで、社会貢献を持続可能にしているのだ。

今回の各自治体・推薦イノベーターの取り組みに共通していたのは、どのプロジェクトも「地域の深刻な痛み」から出発し、それをテクノロジーや新しい感性で「希望」に変えようとしている点だ。会場の展示エリア『QWSエキスポ』では、実際に「浄酎」の試飲や、麗鹿のジビエ製品、Zero Flowerなどに触れることができ、多くの参加者がイノベーターとの対話に花を咲かせていた。

渋谷という大都市のど真ん中で、地方の情熱が化学反応を起こす。ここから日本の新しい未来が動き出していることを強く実感させるイベントとなった。
(取材/コティマム)