地方の伝統産業を、持続可能な「強いビジネス」へといかに変革するか──。これは現代の日本が直面する、地方創生の最重要課題である。
かつて高度経済成長期に黄金期を迎えた呉服産業の市場規模は、この40年で9分の1にまで縮小。京都の伝統である「京友禅」の生産量は、50年前のわずか1.4%にまで落ち込んでいる。
「あと5年、10年で、この素晴らしいものづくりの基盤は完全に消滅してしまうかもしれない」。
そう強い危機感を募らせ、元ITコンサルタントという異色のキャリアから、着物という伝統工芸をアップデートするアパレルブランド「アリサ(ALISA)」を立ち上げたのが、株式会社アーティザンズの代表の山脇有紗氏だ。
彼女が目指すのは、単なる伝統の「保護」ではない。地方の職人が、世界を舞台に圧倒的に稼げる仕組みをつくる「地方創生」の新しいイノベーションである。

【キャプション】今回お話を伺った、株式会社アーティザンズのFounder(創業者)の山脇有紗氏。
海外を飛び回るサラリーマンだった山脇氏にとって、転機は3年半に及ぶ香港駐在だった。
山脇さん:現地の友人たちが、自分以上に日本文化を愛し、「着物は素敵ね」と言ってくれる環境に身を置いて初めて、自らのルーツに対する無知さを痛感しました。
帰国後、コロナ禍をきっかけに着付けを習い始めたのですが、そのデザインや背景に秘められた物語を聞いたときに、心が震えました。私たちは、一つひとつ紡がれてきた日本の歴史の延長線上に生きているんだなって。そこから着物沼にどっぷりとハマったんです。
しかし、一消費者としてその美しさを楽しむ一方で、ビジネスパーソンとしての彼女の目は、産地が抱える切実な構造変化を捉えていた。
山脇さん:素晴らしいものづくりの技術がある一方で、職人さんになろうという若い人材の流入がないことが問題となっています。それに伴う後継者不足、職人数の減少が進んでいて、このまま本当に縮小し続けるんじゃないかと、それは本当に悲しいことだなと感じました。
余談ですが、私がブランドを立ち上げた2年前にお世話になっていた職人さんが、高齢による体調の変化などを理由に、この数年の間に何名も引退されていくのを目の当たりにしています。私たちが今動かなければ、何百年と紡がれてきた日本の工芸が、あっという間に消滅してしまうという強い危機感があります。
技術はあるのに、次世代への継承が難しい。それを回避するためには、職人が継続的に収入を得られること、稼げることが最低条件である。若者が職人を志す環境にするには、ここを改善しなければ産業としての持続可能性は見出せない──。彼女はそう確信したのだ。
そんな中、彼女は次の滞在先であるニューヨークで、もう一つの大きなターニングポイントとなる光景に出会う。

山脇さん:海外のアパレルブランドが、どことなく東洋のテイストを取り入れたスタイリッシュな羽織物(ローブ)を「Kimono」として提案し、多くの人々に愛されているのを目にしました。世界のルームウェア市場のレポートにも、一つの確立されたカテゴリーとして「Kimono」が並んでいる。あらゆるブランドが「Kimono」を売っている。
それを知った時に、正直ショックでした。 日本の伝統的な着物の職人さんが先細りをしていく中、着物のキの字も知らない外国で、『Kimono』というマーケットで大きなビジネスを成立させている。それなら、日本の着物の職人がその市場に参入しない手はないですよね。
歴史を遡れば、江戸時代のジャポニズムから続く「KIMONO」は、世界に開かれた市場です。 日本の素晴らしい技術を持つ産地の職人さんたちと、この世界市場を結びつけることができれば、日本のものづくりはもう一度、力強く息を吹き返すのではないか?
誰もやらないのであれば、私がその架け橋になろう。そう決意し、地方の職人さんたちと共に歩む新しい挑戦をスタートさせました。
撮影/小倉雄一郎(小学館)
インタビュー・文/高田あさこ