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伝統を「文化」から「産業」へ。日本の職人を世界の主役に変える「ALISA」の挑戦【後編】職人のクリエイティビティを次世代へ。デザインを資産に変える新しい仕組み

2026/07/03

職人のクリエイティビティを次世代へ。デザインを資産に変える新しい仕組み

【キャプション】株式会社アーティサンズ・Founder(創業者)の山脇有紗さん。日本の伝統工芸の技術を現代の世界基準に通用する「モダンラグジュアリー」へと昇華させることを使命とし、ウエアブランド「ALISA」を立ち上げた。

海外のライフスタイルに溶け込む「KIMONO(ローブ)」市場の可能性に着目し、株式会社アーティサンズを設立した山脇有紗氏。彼女が立ち上げたブランド「ALISA」が目指すのは、日本の伝統工芸の技術を、現代の世界基準に通用する「モダンラグジュアリー」へと昇華させることである。

そこで山脇氏が選択したのは、伝統の技と現代のテクノロジーを掛け合わせた、極めて合理的な仕組みであり、職人の「クリエイティビティ」そのものを守る独自のビジネスモデルである。

連載第2回では、彼女が構築した地方の職人を支える「持続可能な仕組み」と、地方創生における伝統の未来予想図について伺った。

世界に誇る、一級品の腕を持つ工房、職人とのリレーションシップ

取り組みに欠かせない、伝統工芸を守り続ける工房や職人たちとのリレーションシップも、ひとつずつ丁寧に紡いてきた。

世界水準の技術を共に海外へと届けていく大切な仲間として、山脇氏は具体的な3つの工房との関係性を語ってくれた。

一つは、石川県で100年以上の歴史を紡いできた、日本で唯一の伝統的な絹ジャカード織り企業である小倉織物株式会社だ。

山脇さん: 加賀友禅の作家さんからご紹介いただき、直接工房へ訪問させていただいたのが最初のご縁です。

小倉織物さんは、戦後の石川県内の織機組み立て競技会で1位を獲得された歴史を持ち、エリザベス2世の戴冠式への贈答品や、2020年東京オリンピックの公式スカーフにもその技術が採用されている、まさに日本の至宝のような技術を持っています。

今でも現場では、80歳を超えられた、キャリア65年のベテラン女性工員さんが現役で活躍されているんです。

創業5代目の小倉久英社長は、私自身の新しい取り組みを本当に温かく応援してくださっていて、「一緒に海外へ日本の美しいものを届けていこう!」と手を取り合える、かけがえのない仲間の一人です。

石川県で100年以上の歴史を持つ小倉織物株式会社。
小倉織物株式会社の 5代目、小倉久英社長と。

伝統の中心地である京都で共に歩むのが、のれん作りからアパレルを含めたテキスタイル全般へと可能性を広げている京都染元しょうび苑の2代目・上林博之氏である。

山脇さん: 私が出場したピッチコンテストの審査員の方が「絶対に気が合うはずだから!」と繋いでくださったのが出会いのきっかけです。 京都という伝統のど真ん中にいながら、古い枠に捉われず、新しいことにものすごく積極的に挑戦されている。未来へ続いていく『これからの伝統のあり方』を追求し続ける上林さんの姿には、いつも深い感銘を受けています。日本の美しいものづくりを世界へ届けていく同志として、一緒にこの産業を盛り上げていきたいですね。

↑千総友仙工場の職人さんである北嶋希さん。伝統的な京友禅の技術を「現代のラグジュアリー」として見事に昇華していく若い世代へも期待が高まる。
京都染元しょうび苑が完全手染で手がけた、ろうけつ染のシャツ(参考商品)。

京都市中京区に拠点を構え、長い歴史を持ちながらも新しい伝統の可能性を示し続ける、日本を代表する工房、株式会社 千総友仙工場も「ALISA」のプロダクトを支える重要なパートナーだ。

山脇さん: 千総友仙工場さんは、非常に長い歴史を持つ名門の工房さんでありながら、私たちのようなスタートアップの新しい企業にも、本当に快く協力してくださいました。

そこで職人として活躍されているのが北嶋希さんです。 北嶋さんは、伝統的な京友禅の技術を、まさに私たちが目指していた「現代のラグジュアリー」としてのデザインへと見事に昇華してくださいました。

彼女のような若い感性が息づく姿を見ていると、現代の伝統工芸が持つまだまだ新しい可能性を強く実感しますし、本当に大きな刺激をいただいています。

職人の技と名前を世界へ届けるプラットフォーム

山脇さん:地方創生の文脈において、伝統工芸の技術を活かした製品をスケールさせるのは容易ではありません。職人さんが一つひとつ手作業で行うアプローチは魅力的ですが、どうしても肉体的な負担が大きく、生産量にも限界があります。

また、伝統的な技法で作られた製品をそのまま洋服に仕立てるだけでは、一過性の取り組みで終わってしまいます。

そこで「ALISA」では、あえて手書きにこだわるのではなく、職人さんが描いた美しい原画をデジタルプリント技術で再現。ベースとなる生地には、肉厚な最高品質のシルクを用いて、現代の日常に馴染む上質なウエアを開発しました。

職人さんたちはこれまで、自分が手を動かした分しか収入にならないと言う課題も持っていました。そこで私たちは、職人さんにブランドのためのデザイン(原画)を描いていただき、それを買い取るだけでなく、商品が売れるごとに発生するロイヤリティを、工房や個人に継続してバックする仕組みを作っていこうと思っています。

下請けとして埋もれるのではなく、職人さんの名前やストーリーをブランドの表にしっかりと出していきたい。世界中のお客さまが「この美しいデザインを描いた職人さんに、いつか自分だけの特別な一枚をオーダーしたい」と憧れるような、職人が主役になるプラットフォームを目指しています。

これにより、職人たちは優れた技術とデザインセンスを「資産(知的財産)」として活かし、肉体的な限界を超えて、持続的な収入を得ることが可能になるのだ。

伝統とは、古きに固執することではなく「進化」するもの

山脇氏の視線は、単なる「古いものの保護」に留まらない。時代に合わせた「伝統の再定義」こそが、地方創生の本質であると考えているからである。

山脇さん:伝統の話をするとき、文化として守る活動と、産業として存続させるビジネスの2つの視点が必要です。伝統工芸品の本質は、芸術性を備えた『実用品』。現代の気候やライフスタイルが大きく変わった以上、形を変えずに残そうとすること自体が乖離を生んでしまいます。

伝統とは、過去のルールに固執することではなく、時代の空気を取り入れながら進化していくもの。そのしなやかさこそが必要だと感じています。

彼女が目指す理想の姿は、イタリアの高級ブランド「ブルネロ・クチネリ」にある。職人を何より大切にし、ものづくりの産業を通じてイタリアの小さな田舎の村を丸ごと復興させてしまった、という経営モデルを持つ。

山脇さん:日本の地方にある工房には、世界を驚かせるような一級品の腕があります。それなら、日本からこそ地域を輝かせるラグジュアリーメゾンが生まれるべきだし、そのポテンシャルは十分に眠っています。

アパレルの枠を超えて──目指すのは伝統工芸品の民主化

山脇さん:私の名前に使われている漢字「紗」には、偶然にも「織物」や「糸を紡ぐ」という意味が含まれていました。グローバルで勝負するために授けてくれたこの名前の通り、このビジネスに命を吹き込むことが、私の最大のミッションだと感じています。

そして今後は、アパレルに留まらず、工芸品のちょっとした民主化ができたらいいなと思っています。伝統産業に横串を刺して、継続的に成長していけるビジネスモデルを作ること、そして伝統工芸品がみなさんの日々を彩るような、そんな場を広げていくのが私たちの役割だと思っています。

地方に眠る潜在能力を最高純度のビジネスに変え、グローバル市場へと解き放つ「ALISA」。切り拓く新しい伝統の形は、日本の地方のものづくりの現場に、これまでにない新しい可能性と、揺るぎない誇りをもたらそうとしている。

撮影/小倉雄一郎(小学館)
インタビュー・文/高田あさこ