
日本の地方には、まだ世界に知られていない豊かな魅力が眠っている。しかし、その魅力をどうやって海外へと届ければいいのだろうか。 その一つの解として、京都・銀閣寺のほど近くで「ヴィーガンラーメン」をフックに、外国人観光客を熱狂させている一軒のラボ(店舗)「KOKU Vegan Ramen(コク ヴィーガン ラーメン)」がある。
今回は、同店を運営し「ローカルtoグローバル」をテーマに、全国で地方創生コンサルティングも手掛ける須賀裕子さん、メニュー開発を担当する青木 里衣さんにお話を伺った。彼女たちが目指す食を通じた地域食材の循環と、これからのインバウンド対策としての“おもてなし”の真髄に迫る。

ーー京都でヴィーガンラーメン店を始められたきっかけを教えてください。
須賀さん:元々は東京でカフェの出店を考えていたのですが、家賃などハードルの高さもあり、ご縁のあった京都のお花屋さんに併設された物件でカフェを始めたんです。
その傍らで、私は全国の地方創生や飲食・ホテルの場作りをお手伝いする仕事にも携わっていました。地方に深く関わるうちに、その土地ごとの素晴らしい魅力に惹かれていきました。 ですが、同時に、「都心部の人たちにリーチすることだけに頼る地方創生には、限界がある」と感じていた部分があって。

ーー「都心部向けの地方創生」に限界を感じた、と。
須賀さん:ええ。そんな時、かつて自分がシンガポールやフィリピンに滞在していた頃の記憶が呼び起こされたんです。海外では「メイド・イン・ジャパン」というだけで、非常に丁寧で高品質なものとして、いまだに強いブランド力を持っています。それなら、都心部を挟まずに「地方(ローカル)から世界(グローバル)へ」直接アプローチした方が、地方の魅力を何倍も引き出せるのではないか、と。
そこで、元々運営していたカフェをリニューアルし、私たちの想いを形にして世界へ発信する実験場(ラボ)として、現在のヴィーガンラーメン店を立ち上げました。
ーー数あるメニューの中で、なぜ「ヴィーガンラーメン」を選ばれたのでしょうか?
須賀さん:海外での日本食人気において、ラーメンは常にトップクラスです。そして、「世界中の誰もが食べられるもの」を考えた時、宗教や思想の壁を最も超えられるのが「ヴィーガン」という選択肢でした。ヴィーガンにすることで、世界中の誰もが同じテーブルで食べられる、それがとても魅力的に感じました。また、私が熱狂的なラーメン好きであること、料理人である青木がラーメンを作れること、あとは地域らしさをアピールできる京野菜を使えることなど、いくつもの理由が重なってヴィーガンラーメンに決めました。
ただ、ヴィーガンと聞くと、「体に良さそうだけど、味が薄くて物足りない」というイメージを持たれがちですよね。そこは徹底的にこだわりました。
ーーメニュー開発はどのように行なったのでしょうか?
青木さん:私たちはヴィーガンではないのですが、逆にそこがポイントなんだと思っています。普段食べている動物性のスープが持つ「コクや旨味、満足感」を、植物性だけでどう再現するか。
自分たちが本当に「美味しい」と思える味にすることを大前提に、日本の食材や発酵調味料を使用し、約半年間かけて開発しました。

ーー海外の方が好む味を追求するのではなく、自分たちが自信を持って届けられる味にしたということですね。
青木さん:はい。外国の方に向けた味付けではなく、自分たちの好きな味にまず持っていく。きっと私たちが好きなものは、皆さんも喜んでくれるんじゃないかと思っていて、そこがベースでした。
ーーそのこだわりがあったからこそ、半年でGoogle Mapの4.9という評価につながったんですね。
青木さん:お店に来ていただいた皆さんが、本当に素晴らしい反応をしてくださいます。「アメージング!」「本当にヴィーガン!?」みたいな。笑
そういったお客様からのリアクションに、毎日ものすごく元気をもらっています。
ーー具体的にはどのようなこだわりが詰まっているのですか?
須賀さん:醤油発祥の地である和歌山・湯浅の醤油や、京都のお味噌、野菜、そして日本の伝統的な発酵文化である「麹」などを1杯のラーメンに凝縮させています。
さらに、使用する食材は、すべて「国産」にこだわっています。原価は高くなりますが、私たちが海外の方にラーメンをご提供するほど、日本各地の地方食材が消費され、認知されていく。インバウンドの風をダイレクトに地方の生産者へ還元する循環を作りたいと考えています。
ーー1杯1,800円という価格について、海外の方はどう反応されていますか?
須賀さん:お値段のことはほとんど言われたことがないんです。私たちのこだわりや背景にあるストーリーをきちんと伝えることで、皆さん大満足してくださって、むしろ「安い」という感覚を持っていただいているように感じています。そういう意味でも、インバウンドの可能性はとても大きいと感じています。

ーーオープンして半年の現在、すでに外国人観光客の方々で大盛況とお聞きしました。
須賀さん:ありがたいことに、私たちの想像以上の反響をいただいています。
実は、特別な広告は一切出していなくて、集客は100%「Googleマップ」なんです。銀閣寺周辺に訪れた海外の方が、その場で「ヴィーガン」、「ベジタリアン」と検索してうちを見つけてくださる。
さらには、カフェを運営していた2年間で40件程度だった口コミは、ラーメン店にリニューアルしたこの半年間で250件以上も集まり、評価も「4.9」という高い評価をいただいています。
ーー驚異的な数字ですね!何がそこまで海外の方の心を掴んでいるのでしょうか
須賀さん:もちろん「美味しい」は大前提ですが、口コミを読んで驚いたのは、皆さん「お店での体験」を高く評価してくださっていることです。
実を言うと、うちのスタッフ全員が英語を完璧に話せるわけではありません。でも大切なのは、「目の前のお客様を心から歓迎するおもてなしの姿勢」だと感じています。
こんにちは!と笑顔で迎え、指差しやジェスチャーでも構わないので、「これ、おすすめだよ!」とノリ良く伝える。帰る時には 「ありがとう」をしっかり伝えて お見送りする。言葉の壁を超えた、温かい対話やコミュニケーションそのものが、海外の方にとっては「日本での最高の体験」になっているのだと感じます。


ーーリアルな店舗だからこそできる「体験」ですね。
須賀さん:そうなんです。お店では、餃子に「ゆずみそ」や「柚子胡椒」を添えて出しているのですが、海外の方のほとんどが初めて口にする味です。食べると感動して、「これは何だ!?」、「どこで買えるんだ!?」となります。レンコンなども海外では珍しいので、「日本の根菜だよ」と伝えるとすごく面白がってくれます。
「食べて感動する」というリアルな実体験があるからこそ、お土産としても買って帰ってくださる。店舗が、日本の隠れた名産品を世界にアピールするショールームの役割を果たしているんです。
ーー「ローカルtoグローバル」の未来が見えてきた実感はありますか?
須賀さん: 実は、海外のお客様からの反響で一番嬉しいのが、「私の国にも出店してほしい」というお言葉をたくさんいただくことなんです。
ヴィーガンの方が多い国だと、ヴィーガン向けの選択肢(オプション)自体はたくさんあるそうです。でも、「こんなにしっかりとしたコクや旨味が出せているところは他にない」と言ってくださって。その言葉を聞いて、日本の発酵文化や日本食が持つポテンシャルをものすごく感じているんです。
ーーそれはすごいですね!
須賀さん: これをきっかけに、もっと外へ向けて「ローカルtoグローバル」を加速させたいなと。そのための手法というか、次のステップをまさに考えているところです。
例えば、今の店舗は少し市街地から外れた場所にあるので、より多くの方に知ってもらうために京都市内の中心部に出店することや、私たちのベースである東京への進出も選択肢としてあります。もしくはいっそのこと、私たちが直接海外へ行き、そこで日本のものを輸入してダイレクトにお届けする形も面白いなと。今はまだ構想の段階ですが、そんな夢も広がっています。
ーーいきなり海外展開というのも素晴らしいアイデアだと思います。
須賀さん: ありがとうございます。それから、EC(オンライン販売)もやりたいと思っています。お店にいらっしゃったお客様から、「これを(自国に)買って帰りたい」というお声を多くいただいています。
お客様が帰国された後でも私たちが日本の良いものをお届けできる。そんな風に世界中と繋がりながら、循環できる仕組みを作っていきたいと考えています。

ーー現在は、このノウハウを活かして、ほかの地域でも地方創生に携わられているそうですね。
須賀さん:はい。福島県で、日本酒を海外向けに発信するコンテンツを企画したり、島根県で、海外向けにローカルの魅力を発信するお手伝いを始めています。「まずは勇気を持って、今ある魅力を海外へ届けてみよう」と、他地域へ横展開を進めているところです。
京都の店舗でも、お世話になっている農家さんや蔵元さんへ、海外の方のリアルな「美味しい!」をフィードバックしています。自分たちの作ったものが世界に届いていると知ることで、地域の生産者の方々のモチベーションや活性化にも繋がっていると感じています。
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
須賀さん:今後はECサイトを立ち上げて、この「国産食材の循環」をさらに大きなものにしていきたいと思っています。
そして何より、私たちの店舗を「地方へのハブ(コネクター)」にしたいと考えています。うちのラーメンを食べて、日本の発酵文化や地方の食材に感動した海外の方が、「このお酒が美味しかったから、次は福島の酒蔵に行ってみよう」、「島根に行ってみたい」と、直接地方へ旅立つきっかけを作る。
海外の方が日本を訪れ、1か月ほど滞在する中で、私たちのラボが地方と世界を繋ぐ入り口になれたら、これほど嬉しいことはありません。
●SHOP DATA
KOKU
Instagram @koku_ginkakuji
Googleマップ
https://maps.app.goo.gl/CqwRu5hvz8KhPXzL8?g_st=ic
撮影/杉原賢紀(小学館)
インタビュー・文/高田あさこ