
地方や自治体の魅力は、旅行などで現地に行くことで体感しやすい。もし普段出かける飲食店の場で全国各地の情報に触れ、同時に体験まですることができたら、知られざる魅力の発見と地方創生につながる第一歩になるかもしれない。
飲食店などの情報提供サービスや業務支援サービスを行う株式会社ぐるなびと、情報関連機器の販売を行うエプソン販売株式会社は、飲食店から企業と自治体の魅力を届ける体験型の新たなメディア『ミセメディア』を2025年01月にスタートした。

ミセメディアは、ぐるなびが厳選した首都圏の人気飲食店の中に、エプソンのプロジェクターなど大型ディスプレイを設置し、企業や自治体の商材を“五感体験”として届ける広告媒体。
大画面の映像によって来店客へ視覚に訴えるだけでなく、飲食店でのタイアップメニューによるメニューフェアの展開、店内でのサンプリング、飲食店スタッフからの“オススメ”の接客といった、幅広い方法でPRが可能だ。現在は都内を中心にぐるなびが選んだ30店舗で実施できる。地方企業や自治体にとって、首都圏の人気店で五感に訴えるプロモーションができるのは、魅力を知ってもらう第一歩になるだろう。

今回はぐるなび・飲食店支援事業部飲食店メディア化事業推進部部長の大塚史也さんと、エプソンのビジネスデザインセンター部長・水野知之さんに、ミセメディアの特徴や魅力、地方自治体と実際に行った取り組みなどを聞いた。
【キャプション↑画像が用意出来たら添付】ミセメディアのロゴ
――ぐるなびがチョイスした飲食店で、エプソンの機器を使って映像を流すことができるミセメディアですが、特徴や強みを教えてください。
ぐるなび・大塚氏(以下、大塚)「『映像』という点では、例えばタクシーやエレベーターにもモニターを設置したメディアはあり、最近トレンドになっています。でも、タクシーやエレベーターの中では映像を見て興味を持ったとしても、食べたり触ったりはできないですよね。飲食店ではそれが可能なので、『五感体験を唯一できるメディア』という形で打ち出しています」
――確かに、映像を見た場所でそのまま体験できるのは魅力です。
大塚「ぐるなびは、飲食店を『感情が動く』『表現する』場所だと考えています。ある卓では、初めて会う人にドキドキしている人がいるかもしれない。ある卓では、僕の悪口を言っている部下がいるかもしれない(笑)。飲食店という、いろいろな感情がある特殊な空間の中で、さまざまな体験を提供できるのです。食品や飲料に限らず、『使ってみてもらう』『触れる』『実物が見られる』というのが大きいです。スマートフォンだと、どうしても画面の中で争わないといけない。例えば、茨城県の納豆と他県の納豆を比べた時に、スマホの中だと結局、金額か入っている栄養素くらいしか違いが判断できません。でもミセメディアなら目の前に実物があることによって、もっと『物語』として理解できて、受け取り方が変わってくると思います」
――企業や地域の価値、背景などが「物語」として届けられるのですね。

大塚「広く届けるメディアはたくさんありますが、ミセメディアは深く差し込んで、心の中に届けていく。何より『広告』ではなく『思い出』として持って帰ってもらえるので、非常に記憶に残りやすいと思います。また、『新たな商品と出会う』という“偶然的な出会い”ができるのも強みです」
――“偶然的な出会い”ですか。
大塚「最近はSNSのアルゴリズムに起因して、皆さんの“好きな情報”しか入ってこないですよね。これをマーケティング用語で『フィルターバブル現象』といいます。お酒が好きな人にはお酒の情報しか出てこない。つまりアルゴリズムに支配されてしまっている。その結果、すでに興味を持っている顕在層には情報が届いても、潜在層には届くことすらなくなりました」
――確かに、自分に関連する情報しか出てこなくなっています。
大塚「ミセメディアは、フィルターバブル現象に対して“偶然的な出会い”を生むことができる媒体です。飲食店は滞在時間が長く、会話も生まれます。店内で流れる映像を見て、『これなんか見たことあるわ』と会話のネタにしていく。映像で流れた食材を使ったフェアメニューを食べて、『この料理おいしいね』『今度現地にも行ってみたいね』という会話にもなるので、映像を見るだけでなく体験を伴うことによって記憶に残りやすくなります」
エプソン・水野氏(以下、水野)「最近は街を歩いていると、交通広告や駅ナカ、コンビニのレジ上など、あらゆるところでサイネージを目にしますよね。でも今まで飲食店にはありませんでした」
――ありそうなのに、意外です。
水野「日本に飲食店は約50万店舗あると言われていますが、そのうち7〜8割は個人店なので、導入が難しいのもあるかもしれません。ぐるなびさんは、多くの人気飲食店とのネットワークを有しており、このメディアを実現できる希少なパートナーです。単に店舗を集めるのではなく、体験価値の高い人気店・繁盛店を集められたことが、ミセメディアの価値に大きく影響していると思います。」
――実際、店舗で流すプロモーション映像は見られているのでしょうか。
大塚「平均視認率は68%です。ちなみにタクシーメディアは、車内でマンツーマンで見てもらえることが強みですが、その状態で69%。ミセメディアはタクシーメディアと遜色ないほど見られています」
水野「正直、飲食店で映像がどこまで視認されるかは、事業立ち上げ時の重要な検証テーマで、実店舗での検証を繰り返しました。プロジェクター、テレビ、タブレットの3つを用意して、『どのデバイスが一番よく見られるか』を検証したのです。その結果、プロジェクターが最も高い視認性を示したことで、大画面映像が飲食店空間に適していることを確認できました」

――テレビやタブレットよりも見られたのですね。
水野「やはり『大画面映像によって自然と視線を集められること』が、シンプルだけど価値なのだと思いました」
――そもそも、ぐるなび×エプソンで共同事業をしようと思ったきっかけは。
水野「エプソンが長年培ってきたプリンティング、あるいはプロジェクションの技術と飲食店には高い親和性がありました。どの飲食店にもたいてい、レシートプリンターやPOP、ポスター、メニューを店中で印刷するプリンターなど『エプソンの機器』が置いてある。そういう歴史がある中で、私が新規ビジネス開発をすることになった時に、既存ビジネスとの親和性を活かした新たな価値創出を模索する中で、映像を起点とした体験価値を提供するビジネスの可能性に着目しました。一方で、ぐるなびさんも飲食店の新たな価値創出を模索しており、両社のビジョンが一致したことから、飲食店を体験型メディアへと進化させる『ミセメディア』の構想がスタートしました。」

大塚「ぐるなびは飲食店情報サイトもありますが、『日本の食文化を守り育てていく』ということが創業からの想いです。『飲食店は日本の宝』なので、飲食店を守っていかなければならないと考えています。これまで飲食店情報サイトを基軸に集客のお手伝いをしながら飲食店を守っていましたが、『集客だけだとお店が守れない』ということに早い段階で気づき、メニューのご提案や人材育成など、“併走するサポーター”という形で支えています。今、原価の高騰や人手不足などで飲食店が非常に苦しい中で、『飲食店さんに何かプラスαの収益源を作れないか』と思って始まったのがこのミセメディアです」

――地方自治体とはどのようにつながっていったのでしょうか。
水野「立上げ当初はまだ誰も知らない新しいメディアだったため、ぐるなびさんとエプソンの人間関係の中からつながっていきました。コンセプトには共感いただく一方、前例のない取り組みゆえ採用には慎重な声もありました。それでもおかげさまで、石川県さま、福岡県さまと事例を作ることができました」
――石川県、福岡県では、ミセメディアを使ってどのようなプロモーションをされたのですか。

水野「石川県さまは『応援消費おねがいプロジェクト』として、25年1月に石川フェアを実施しました。24年1月に能登半島地震が発生してちょうど1年だったので、『1年経って、前を向いている姿を世の中に発信していきたい』『石川は元気だよ』という思いを持たれていたタイミングでした。ですので、首都圏の飲食店で石川の映像を発信し、さらに石川の食材を使ったメニューフェアを行いました」

大塚「福岡県は博多や天神が有名ですが、福岡と大分の間のエリア、県境地域である豊築エリアのPRを行いました。豊築エリアの美しい映像を店内で流し、その地域の名産である『菊芋』という食物繊維が豊富な食材を使ってメニュー開発しました。映像と連動させることで、まだ知られていない地域のファン、つまり“関係人口”を創出することに成功しています」

その他にもミセメディアでは、25年12月に山形県東根市のPRも実施。『東根さくらんぼ』などの高品質な特産品の魅力を飲食店の大画面で伝えながら、テーブルやPOPのポスターからQRコードでふるさと納税の返礼品ページへ誘導。スマホの画面上だけでは伝わりづらい生産者の想いや現地の空気感を、食事を楽しみながら五感で体験してもらった。

また26年6月には、三和酒類の本格焼酎『いいちこ』のプロモーションも実施。店内の大画面でショートムービーを放映した他、ブランド名にちなんだ「1.15(いいちこ)秒」でストップウォッチを止めるタイムチャレンジ企画も行った。成功者にはオリジナルマドラーをプレゼントするなど、『映像×メニュー×ゲーム』の三位一体で、深いブランド体験を提供した。

大塚「ミセメディアとふるさと納税は相性がいいです。いろいろな物語がある食材を、映像でしかプレゼンできないのは、生産者としては悲しい。映像の後に『食べて体験してもらう』ことで、ふるさと納税の納税額を増やしていきたいと考える自治体さんも増えています」
――今後、ミセメディアで目指すものを教えてください。

水野「今は首都圏中心に30店舗です。今後は店舗数の拡大だけでなく、提供エリアの拡充も含め、最適な成長モデルを見極めていきます。また、食に限らず今は“推し活”もすごく流行っていますよね。アニメやアイドルの世界観を模した期間限定の飲食店を1店舗だけでなく多店舗で展開するというのも、ひとつの方向だと思います」
大塚「僕らは『物語』というか、魅力を届ける場所として『飲食店を使ってみませんか』と提案しています。地方や自治体に魅力があるのに『届いていない』というのは、すごくもったいないこと。僕が福岡支店にいた時に、博多は水炊きやラーメンのイメージありましたが、実は生サバが食べられるとか、家賃も都内の半分で、女性人口の方が男性より多いなど、そういった事実を初めて知りました。それが外に届けられていなかった。ミセメディアが入ることによって、各地域の知られていない魅力を、『ここが魅力じゃないですか?』と外から一緒に探して、飲食店というリアルな場で発信していければなと思います」
「美味しそう」という視覚情報が、その瞬間に「美味しい」という実体験に変わる。そして、その体験が会話を生み、誰かの「物語」として記憶に刻まれる――。ミセメディアが提供するのは、消費者と地域を深く結びつける「体験の場」そのもの。情報の取捨選択が自動化される時代だからこそ、 “偶然の出会い”が必要なのだ。飲食店というエモーショナルな空間とそこに掲げられた大画面が、全国各地の魅力を知ってもらうきっかけとなっている。
(取材/コティマム)