住民票の発行、税金の納付、子育て支援——。私たちが日常的に利用する公共サービスは、裏側でITシステムによって支えられている。しかし現在、全国の自治体は2026年3月の「システム標準化」という巨大な壁に直面し、悲鳴を上げている。この危機に「現場主義」で立ち向かうのが、愛知・名古屋発のITメーカー・アズウェル株式会社だ。代表取締役の鷹羽浩介氏に、同社の取り組みと自治体ITの未来について聞いた。

アズウェルは、自治体向け公共システムの導入・設計・開発・運用保守・パッケージ開発などを行うITメーカー。自治体だけでなく民間企業向けの生産・販売管理等、基幹システム開発の他、 AIパッケージ開発・民間企業向けITリスキリング事業なども行っている。直近の5年間で、愛知県、静岡県など中部地方の他、北海道、宮城県、福島県、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、栃木県、大阪府、兵庫県、広島県、高知県、鹿児島県など、29都道府県・74市区町村、約1,100件の公共案件を受注している。

通常、自治体のシステム導入や運用は大手ベンダー(元請け)が受注し、そこからパートナー企業や下請け企業へ一次、二次、さらに孫請けへと業務が何段階にもわたり再委託される重層的な取引形態となっている。
こうした状況の中で、国が進める「自治体システムの標準化」が現場の大きな負担になっている。システムの標準化とは、これまで自治体ごとに異なっていた業務システムを共通仕様に統一し、特定ベンダーへの依存を減らすことで、コスト削減や災害時の対応力強化、データ連携の向上を目指しているもの。人口減少が進む中、行政サービスを持続可能な形に変えていくために避けて通れない取り組みだ。
しかし自治体現場では人手不足や業務増加が重なり、手が付けられない状態だ。自治体業務は住民生活に直結しているため、窓口対応や電話対応、事務処理などの日常業務を止めることができないからだ。標準化の期限は2026年3月とされていたが、期限内に移行できている自治体は少ない。現在国は、2030年までに標準化を目指している。

こうした背景の中でアズウェルは、自治体の「現場に入り込めるIT企業」として注目を集めている。しかも大手ベンダーの下請けとして作業を行うのではなく、自治体から直接受注している。つまり、自治体と直接やり取りしながら課題のヒアリングを行い、設計・開発・運用保守までを一貫して行っているのだ。
――改めて、アズウェルでは自治体向けにどのような事業をされていますか。
鷹羽氏「私たちは一言で言えば、役所などの公共サービスをIT技術で裏から支えるITメーカーです。地方自治体向けのインフラというか、 “出生から亡くなるまでの住民の情報管理、税務、福祉”など、市役所や官公庁さんの日本の住民サービス・市民サービスの基盤になるシステムを管理しています。現在、全国70以上の自治体を支援していますが、大手が敬遠しがちな対応が難しい業務や、小規模な自治体にも深く入り込み、現場の課題を直接解決しています」

――名古屋に拠点を置いている理由は。
「私がもともと愛知県出身であること。そして恵まれたことに、愛知県にはトヨタさんがあるおかげで税収にも恵まれており、新しい市民サービスの深掘りや発展が作れる環境にある。そこでの実績をもとに、今は事業を全国に展開しています」
――鷹羽社長ご自身が、もともと三次請けのシステム会社にいらしたと拝見しました。そこから見えてきた課題などはありましたか?
「もともと、自治体システム開発を行う三次請けの会社で14年間勤務していました。やはり三次請けや孫請けになると、責任問題が遠のく。そして給料面も安い。ただ当時、私は三次請けでも意見を言える立場に変えていき、付き合い方を変えてきました。孫請けの仕事は責任が薄いようでいて、実は現場をしっかり支えている。当時は目の前のお客さんしか見えていませんでしたが、『もっと広い世界を見たい』と思い、ステージを変えてきました。『自分が積み上げてきた価値を無駄にしたくない』『現場の課題を直接解決したい』という強い想いが、アズウェル設立の原動力です」

――現在は三次請けや孫請けではなく、自治体から直受注されています。最初はどうアプローチされたのですか。
「アプローチの観点で言うと、当たり前ですが『言われた約束は必ず守る』こと。状況を整理して、お客さんが何に困っているかを対話で見極めることから始めました。大手のシステムを使うと決まった形になりがちですが、『こうすれば(パッケージから外れたことも)できますよ』という、カスタマイズできる提案をどんどんしていきました。今、東京都であるお仕事もさせてもらっていますが、それはホームページの内容を見て『こういう相談できますか?』とお電話をいただいたのがきっかけです。これまでの実績を積み重ねてきた結果、そうさせていただけるようになりました」
――アズウェル立ち上げ当初から、すでに自治体から直接受注できていたのですか。
「いえ、全然です。ゼロからです。前職の会社に14年勤めている間に、大手企業さまと良好な関係を作っていました。起業して最初の数年は、ある会社さんのお力をお借りして仕事をして信頼を積み重ねていきました。3年目に入る時に、大手企業さまと直接仕事ができる環境が整いました。そこから少しずつ広がって行きました」
――信頼が次に繋がっていったのですね。
「私がSEをしていた頃は、今と違って現場に行かないといけなかった。静岡の伊東市から愛知の東海市まで1日で何現場も作業して移動して同じような業務をこなし、深夜3時に終わる……なんて業務を普通にしていました。でもそれが、仕事をしている中での僕のプライドや自信に繋がった部分はあります。『鷹羽に話せばこの業務は完璧だ』『鷹羽に任せれば何とかなる』と言っていただけるクオリティを担保してきたことが、今の実績に繋がっていると思います」
――SEとして自分がプレーヤーだった時と、会社を経営して人を育てる時では、視点が変わってくると思いますが、どう学ばれたのですか?

「半分以上は『行き当たりばったり』です(笑)。これまでプレイングマネジャーをずっとやっていました。でもある時、僕なら30分で終わる処理を新入社員に任せたら、1日経っても終わらなかった。その時、社員から『社長はスーパーマンだけど、僕らはまだスーパーマンじゃない。待ってください』と言われてハッとしたんです。『任せる』ということをしないといけないんだと。それからは、それぞれの社員のステータスに合わせた仕事を評価し、階級(評価制度)を作って頑張りを評価するようにしました。 今60人ぐらいの組織になりましたが、自分も毎日勉強しないとダメだなと思っています。会社の規模が大きくなって、『俺は偉いんだ』と胡坐をかくつもりはなくて、常に最前線にいたい。地方創生もそうですが、誰かに何か言われた時にアドバイスができる器でありたいと思っています」
――自治体をITで支えてきた中で、各自治体が抱える現場の課題を感じたことはありますか。
「どこの自治体もそうですが、人手不足。女性や高齢者の活躍も素晴らしいですが、市役所に外国人の職員を入れられるかというと、まだハードルが高いです。住民サービスを受けに来る側も、相談する側も外国人が増えてくる中で、どう対応していくか。地方に行けば行くほど『なり手』がいなくなる課題はあります。『また市町村合併をするのか』といった、体力的な問題も見えてきます」
――特に過疎化の進む自治体にとっては深刻な問題です。
「それから自治体職員は3〜5年に一度、必ず人事異動があります。それは業者との癒着を防ぐためでもありますが、そこで技術や情報の伝承がうまくいっていない。担当が変わると『前のことは知らない』となってしまう。なので我々が継続的に仕事をさせていただくことで、『前の担当者はこう判断されていましたよ』と安心感を与えられる。そこをどう繋いでいくかが1つのポイントです」
――情報を引き継いでいくことも重要ですね。
「地方はすごく魅力がありますが、それをPR・発信するとなると外部の力を借りないといけない。でもその使い方が定まっていない。先日、タクシーの運転手さんと話していた時に、『北陸新幹線が石川の金沢まで繋がったことで、名古屋を飛ばして金沢へ行く人が増えた』と聞きました。名古屋も今、中ぶらりんになって苦しんでいる側面がある。発信力を高めるために、我々のような会社がしっかりした情報を届けられるようにならないといけないと思っています」
―― 国が自治体に「システムの標準化」を求めていますが、現場は疲弊している印象を受けます。実際はどうですか?
「まず『財政』の問題があります。国が標準化の計画を立てた時は1ドル120円ぐらいでしたが、今は160円(※インタビュー当時)。ハードウェアやクラウドのコストはアメリカ資本なので、米ドル建てです。この予算ギャップをどうするかが課題です。また、『市役所職員になりたい人』が減っている中で、クレーム対応などの大変な仕事を誰がやるのかという問題もあります」
――課題が多い中で、標準化をやるメリットはあるのでしょうか。
「標準化の大きなメリットは、データがしっかり管理されること。昔の年金問題や戸籍の紛失のようなことはなくなります。また、3.11(東日本大震災)の時のように紙の資料が流されてしまうといったリスクも、クラウド化によってデータが残るようになるので安心です」
――なるほど。標準化に向けて、アズウェルができることはなんでしょうか。
「政府の指針は『2030年までに標準化をやり切りなさい』というもの。そこで出てくるフラストレーションを解決する仕組みを我々は用意しています。標準化される業務とされない業務(標準外業務)がありますが、例えば愛知では手厚い子どもの医療費助成などは、標準外業務になりやすい。標準パッケージだと『ここまでしかできません』となり、市民への通知が分かりにくくなってしまう可能性がある。そういったところを改善する仕組みを、アズウェルが行ってきた『カスタマイズ』の経験を活かして提供していきたいです」

――最後に、今後の目標を教えてください。
「今後は生成AIを使いながら、いろいろなものを作れるように準備しています。市役所の仕事は、繁忙期はどうしても残業が出ますが、職員の方が1分でも1秒でも楽しく仕事ができるような環境をITの力で整えていきたいです。これは製造業などの民間企業さんも含めてですね。それからシステム標準化が完了すると思われる2030年以降を見据えて、地方に安心を届けられる仕組みを準備しています。アズウェルが、『ちょっと困ったらまず電話して聞いてみよう』という窓口になれればうれしい。誰かに承認され、認知されることは企業が存続する上でも大事なことだと思っています」
2030年に向けたシステム標準化という大きな転換点において、真に求められているのは、単なる仕様の統一ではない。日々、住民と向き合う自治体職員が、誇りと喜びを持って働ける環境をいかに構築するか――。三次請け時代の経験を糧に、「現場の課題を直接解決したい」という信念を貫いてきたアズウェル。同社の姿勢は、疲弊する自治体現場にとって暗闇を照らす一筋の光となるだろう。ITの力で「止めてはいけない当たり前」を守り抜くアズウェルの挑戦は、日本の公共サービスの未来を確実に変えようとしている。
(取材・文/コティマム)