石の上にも三年、とはよくいったものだが、2023年の大河ドラマ「どうする家康」の主人公で、戦乱の世を終わらせた天下人の徳川家康が浜松で過ごした日々は、その6倍にも近い17年。それはまさに、忍耐とその結果の成長の17年であったといえる。織田、今川での人質時代を経て、生誕の地三河の岡崎城主となっていた家康が、切り取った遠江に居城を移したのは元亀元年(1570)。織田信長のアドバイスもあり、迫りくる武田信玄の軍勢と対峙するための拠点として選んだのが、永禄11年(1568)に奪った引間城であった。引間城の一部を取り込む形で新たに城を築城、浜松城と命名した。
大河ドラマ「どうする家康」でも、すでに舞台は岡崎を離れ、浜松に移っている。過日の放送でも描かれた家康三大危機のひとつに数えられる三方ヶ原の戦いも、浜松の広大な三方ヶ原台地で繰り広げられた。そこで今回、大河ドラマ「どうする家康」の真っただ中に入り込むべく、浜松に新たに造られた「どうする家康 浜松 大河ドラマ館」を訪れてみた。
JR浜松駅からバスで約7分(さらに徒歩5分)、歩いても20分ほどの浜松の中心部に位置する浜松城の隣に造られた「どうする家康 浜松 大河ドラマ館」。静岡、浜松、岡崎にある大河ドラマ館のうち、新設されたのは浜松のみだ。浜松の大河ドラマ館は、1月22日にプレオープン。いったん休館した後、展示内容をリニューアルし、物語の舞台が浜松に移るのに合わせて3月18日にグランドオープンした。4月5日には、1月から約2か月半という短い期間で来館者が10万人を突破。ドラマと足並みをそろえて盛り上がりを見せている。
大河ドラマ館に入ると、まずは松本潤さん演じる家康の大判パネルがお出迎え。「ようこそ我が城へ」と案内された気分になって奥へ進むと、ドラマの中で見たのと同じ、浜松城の出丸はね上げ門が再現され、いざ、城内へ、という趣向になっている。門のすぐ内側にある見張り小屋は、ドラマで実際に使われたものが展示されている。こうした建造物をそのまま展示できるよう、天井は4メートル以上の高さがあるが、そのため館内にいながら屋外にいるかのような錯覚を覚える。家康や家臣団がそこいらを歩いているのではないか、と思わず辺りを見渡してしまう。
さりげなく展示されている馬防柵にも注目だ。実際にドラマでも類似の柵が散見されたが、これは史料をもとに再現されたもので、わざと段違いに組むことにより、敵に梯子のように上られない構造になっているのだという。無造作に造られたものと思いきや、実は精巧な再現だったことに驚かされる。
撮影で使われた見張り小屋の上に置かれた重石は本物そっくりに見えるが、実は発泡スチロール製。大河ドラマの美術スタッフの技術を、こうして間近に見られるのがありがたい。
ドラマの中でキャストが着用した衣装や使用していた小道具なども展示。キャストの等身大パネルと一緒に記念撮影をしたり、足元に表示される模様を踏むとスクリーンにビジュアルが飛んで表示される体験型のデジタルコンテンツ、キャストのサインなど、内容は盛りだくさんだ。3か所にある大河ドラマ館のうち、240インチのスクリーンがあるのは浜松だけ。巨大スクリーンで見られるメイキング映像やキャストのインタビュー映像は必見だ。
【どうする家康 浜松 大河ドラマ館】
静岡県浜松市中区元城町102-1(浜松城東)
電話:050-3154-0830
開館時間:10時~18時(最終入場17時30分)
どっぷりドラマの世界に浸って大河ドラマ館を出ると、目の前の葵広場の一角に、御誕生場の井戸がある。あくまで伝承だが、家康の子でこの先ドラマの中で登場予定、史実では徳川2代将軍となる秀忠の生誕地にあったとされる井戸である。
また、広場の一隅には、大河ドラマ館建設に先立ち、発掘調査を行った際に出てきた石垣の現物が展示されている。浜松城本丸北東隅の野面積みの石垣で、1590年から1599年の間に浜松城主を務めた堀尾氏時代のものと想定されている。野面積みは、自然石をほとんど加工することなく積み上げ、間に礫石を挟んで補強した石垣の組み方で、石は浜名湖周辺から運んだものと見られている。ドラマと歴史のリアルが交差する広場に改めて感銘を受けた。敷地内にはインフォメーションセンターと土産物屋の「出世の街 家康SHOP」もあり、ここでしか買えない大河ドラマ関連グッズや、餃子、浜松焼きそば、うなぎパイといった浜松名物などを買い求めることができる。
続いて、大河ドラマ館の背後に聳える、浜松城復興天守へ。平山城の浜松城は、家康の時代にはまだ天守はなく、ドラマの中で見るような姿であったろうと思われる。江戸幕府初代将軍となった家康の後も、浜松を居城とした多くの大名らが幕府老中などの要職に就いたことから、出世城と呼ばれている。
野面積みの石垣上に建てられた復興天守の内部には、往時の柱を立てた礎石や井戸などの現物展示がある他、三方ヶ原の戦いの様子を分かりやすく解説した模型展示、出土品などがあり、浜松の歴史を楽しみながら学習することができる。浜松の台地を見晴るかす最上部からは、武田軍との激戦地となった三方ヶ原方面を一望。市内には今も、この戦いで家康がいかに苦しんだかを物語る伝承がいくつか残されており、ドラマでも話題になった柴田理恵さん演じる団子売りのおばあさんとの逸話(あくまでおばあさん談)に由来する「小豆餅」「銭取」といった地名が今も残る。
【浜松城】
静岡県浜松市中区元城町100-2
電話:053-453-3872
開館時間:8時30分~16時30分