京都在住の写真家・水野克比古さんは、半世紀以上にわたり古都の四季を撮り続けてきた。都を彩る四季折々の情景は、雑誌や広告、写真集などを通して多くの人の目に触れ、京都の新たな魅力を伝えてきた。
三浦 水野さんは、いつ頃から京都を撮影されているのですか。
水野 本格的に始めたのは、昭和44年(1969)あたりからです。ちょうど写真の主流が白黒からカラーに変わる頃でした。桜や紅葉鮮やかな光景を、カラー写真で伝えられるようになったのです。そうなると、だんだんと京都のカラー写真の需要が出てきて、雑誌の仕事なども増えてきました。
三浦 以来、京都を撮り続けておられるわけですね。半世紀以上も撮影を続けていると、撮るものがなくなりませんか(笑)。
水野 それが不思議なことに、毎年新しい撮影スポットが現れるのですよ。未公開だった塔頭(※たっちゅう。大きな寺院の山内にある別坊、小さな寺院)が公開されたり、お寺さんも建て替えなどで新しい姿を見せます。変わらないように見えて、変化を続けているのが京都なのです。
三浦 京都のさまざまな姿を発信し続けてこられた水野さんですが、平成5年(1993)の秋から始まったJR東海の 「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンでは、数々の作品がポスターに採用されています。今年はキャンペーンが 開始されて30年になります。
水野 そのCMは実は京都では流れませんので、当初は知らなかったのですが(笑)、もう30年になりますか。「そうだ 京都、行こう。」では、平成6年(1994)に雪の法然院の写真をポスターに使っていただいたのが最初です。
三浦 平成8年(1996)に、「八坂の塔」の雪景色が大判のポスターになり、駅などに貼り出されましたので記憶に 強く残っています(下写真)。この写真はどのように撮影されたのですか。
水野 撮影した場所はもうないのですがビルの屋上です。早く着いたので、人を待っている間に日が暮れ、雪でも降ってくれないかなと思っていたら本当に降り始めた。
三浦 偶然が重なり、素晴らしい作品になったのですね。
水野 長いこと写真家をやっていますが、願って雪が降ったのはこれを入れて3度しかありません。
三浦 これから京都は紅葉が真っ盛りとなりますが、今年も撮影に出かけられますか。
水野 桜と紅葉の時季は毎日、撮影に出かけます。1か月は紅葉の見ごろが続きますので、毎年100か所ほどで撮影 しています。ことに今年は夏が猛暑でしたので、これからぐっと冷え込めば、寒暖差で紅葉がより鮮やかに映えると思います。
三浦 今年の京都の紅葉は期待できそうですね。
1993年に「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンが始まって2023年秋で30年。それ以前も京都は多くの人が訪れる観光地でしたが、このキャンペーンのテレビCMやポスターで改めて古都へ誘われた方も多いことと思います。そして、2023年も紅葉に包まれる南禅寺のCMやポスターを目にし、この30年の時の流れや来し方を懐かしむのは私だけではないように思います。
1993年、私はまだ『サライ』編集部ではなく、女性週刊誌の新米の芸能記者でした。仕事で毎週のように京都の撮影所や大阪のテレビ局へ東海道新幹線で往復し、いつでも連絡が取れるようにとポケベルを持たされ(まだ、携帯電話はトランシーバーのような大きなものしかありませんでした)、ベルが鳴るたびに車内の公衆電話まで走りました。
時間に追われ、仕事が終わればすぐにとんぼ返りをするような日々でしたが、あるとき「そうだ 京都、行こう。」で冬の夕暮れの八坂の塔のポスターに「そうか『考える時間』じゃなくて、『考える場所』がなかったんだ。反省するにせよ、決心するにせよ、舞台は必要です。」というキャッチコピーがあって「上手いなあ」と思いました。たぶん、仕事で何かに迷っていたのだと思いますが(笑)、偶然にもそのポスターの写真を撮られたのが今回、お話を伺った写真家の水野克比古さんでした。
以来、気になるキャッチコピーはメモするようになりましたが、「ここの桜のように一年にたった一回でもいい。人をこんなにも喜ばせる仕事ができればなんて思いました。」がお気に入りです。
『サライ』編集長 三浦一夫
平成5年(1993)秋にスタートした「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンは、2023年で30年目を迎えた。毎回、斬新で印象的なCMとポスター等を通して京都の新しい魅力を発信し続け、日本の四季の美しさを再発見させてくれる長寿キャンペーンだ。
30周年の2023年は、JR東海が特別なプランとイベントを用意し、京都の旅をさらに盛り上げる。「30周年特別プラン」 では、「カレンダーつき旅行商品」と「限定オリジナル御守りと拝観券」に加え、寺院の復興体験などができる特別なプロジェクトが用意されている。「30 周年特別イベント」は、ポスター風のオリジナル画像が作成できるSNS連動企画だ。