北海道から沖縄まで既存の歩き道を一本につなぐ「ジャパントレイル」プロジェクトがはじまった。乗り物を捨てた歩き旅は、現代社会においてカルチャーとして根付く可能性を秘めている。そして世界へ向けた日本の広告塔としても期待される。その地を知る最善の方法は、歩くことなのだから。
ロングトレイルとは、山頂にこだわることなく自然や文化、歴史に触れながら歩くために整備された道のことである。それは、登山道や自然散策路に限らず、林道であったり車道であったり、ときには畦あぜ道みちや牧場だったり、道の種類は問わない。
そんなロングトレイルは日本各地に点在し、「日本ロングトレイル協会」に加盟しているロングトレイル運営団体だけでも国内に約30ある。この加盟トレイルの一部を踏みつつ、既存の歩き道を北海道から沖縄までつなぐ日本列島縦断コースが提唱された。その名もズバリ「JAPAN TRAIL」。2022年6月に発表された第一次案ルートの総延長はなんと約1万㎞に及ぶ。第一次案ルートとは、ルートが二股に分かれるエリアもある、という意味だ。ハイカーや地元民、プロジェクトに関わる人々からフィードバックを得て、トレイルの完成度を徐々に高めていく計画だ。いわば、日本最長にして無二のトレイルをみんなで作り上げていこうという壮大な試みである。
ひと筆書きでスルーハイクする猛者はひと握りで、多くの人はセクションに分けて歩くことになるだろう。歩き方は十人十色だ。乗り物を捨てると人に出会う機会が増える。いままで見えなかった世界が見えてくる。歩行スピードは、人間のDNAに刻まれた世界を見る窓だ。また同時に自分と向き合い、考える時間を与えてくれる。歩くことは、その土地を知る最良の手段といわれるが、自分を知る手段でもあるのだ。
疫病、エネルギー問題、地球変動……世界はいま転換期を迎えている。生活にも旅行にも自然を取り入れたい気運が高まっている。まさにいまこの混沌とした日本で生まれるべくして生まれたプロジェクトといえる。
ここでは本誌おすすめの7コースを取り上げ、うち2コースを実際に歩いてレポートする。
【JAPAN TRAILのルート設定5か条】
● 日本ロングトレイル協会加盟トレイルなど、既設のトレイルを有効に利用します。
● 舗装されている国道や県道などは、なるべく通らないようにします。
● 歴史や文化のある古道・旧街道などを利用します。
● 可能な限り四季を通じて安全に歩けるルートを選択します。ただし、一部には積雪によって一定期間、通行不能になるルートもあります。
● 既設の登山道やハイキング道、長距離自然歩道、散策路などを利用します。