※この記事は「サライ」に掲載されたものです。
「安曇野(あづみの)アートライン」とは、信州・安曇野エリアに点在する美術館・博物館などの総称。デジタル全盛時代だからこそ、“アート”の力が再認識されている。多彩な美術館群を生み出した、信州の“アート・パワー”の魅力を感じる旅の勧め。
最初にクイズ――。
「美術館、博物館が一番多い県はどこか」
答えは長野県である。2018年度社会教育調査統計表によると、長野県のその数は345館だ。日本全国の美術館数の約10%を占める計算だ。なぜ、長野県に多いかについては、教育県だから、別荘地が多いからなど、諸説ある。なかでも、JR大糸線沿いの“安曇野アートライン”と呼ばれる地区には17館が集中する。
その中心的存在が「碌山(ろくざん)美術館」だ。明治12年生まれの碌山こと荻原守衛(おぎはらもりえ)は、日本の近代彫刻の扉を開いたといわれる。
「碌山は、地元の安曇野市出身で、その生涯はわずか30年でしたが、日本に精神性、文学性豊かな彫刻の息吹をもたらしました。現存する作品は15点に過ぎませんが、うち2点が重要文化財の指定を受けています」と、同館学芸員の武井敏さん。碌山は、パリの“考える人”で知られるオーギュスト・ロダンに教えを受けた。彼の才能を守り伝えたのは、友人の高村光太郎だ。代表作の《女》は、日本近代彫刻の最高傑作だ。
「肉体の量感と流動、密度、構成がみごとに表現されています。内的情感が美しいんですね」(武井さん)。男性優位社会の明治時代に“新しい女性像”をみごとに表現しているという。館内は、女性客が圧倒的に多い。また、「碌山美術館」自体が魅力的である。つくられたのは、昭和33年だ。
「設計者は、日本にガウディを紹介した事で知られる建築家の今井兼次です」(武井さん)
赤レンガ造りの均整のとれた教会風の建物は、見飽きない。『この館は二十九万九千百余人の力で生まれたりき』という銘板がかけられている。長野県民をはじめ30万人もの人々から建築資金の寄付が寄せられ、地元の中学生がレンガ積みや瓦運びを手伝った。アート・パワーだ。ボランティア精神の走りではあるまいか。敷地内は緑が豊か。ゆったりと流れる時間の中で、個性的なベンチに一日中座っていたくなる。癒(いや)されるのだ。
住所:長野県安曇野市穂高5095-1
電話:0263・82・2094
開館時間:11月~2月は9時〜16時10分、3月~10月は9時〜17時10分
定休日:月曜(休日の場合は翌平日)※5月~10月は無休、12月21日〜31日は休
料金: 大人900円
次に訪れたのが、安曇野市の隣の池田町の「北アルプス展望美術館」(池田町立美術館)だ。「30年前、池田町で幼少期を過ごした小島孝子さんの遺作の寄贈を受けたのが美術館の始まりです」と、同館学芸員の矢花久美さん。
標高600m余にあり、常念岳(じょうねんだけ)や有明山をはじめとする北アルプス連峰、眼下に安曇野平野がまるで箱庭のように広がる。絶景である。心がゆっくり溶けていく。
住所:長野県北安曇郡池田町会染7782
電話:0261・62・6600
開館時間:9時〜17時
定休日:月曜(休日の場合は翌平日)・12月11日~2月末日・展示替え期間※要確認
料金:大人400円
安曇野以外にも長野県には魅力的なアート施設が点在している。「松本市美術館」の松本出身の草間彌生(くさまやよい)の作品も見逃せない。この夏は信州のアートの旅がお勧めだ。
住所:長野県松本市中央4-2-22
電話:0263・39・7400
開館時間:9時〜17時
定休日:月曜(休日の場合は翌平日)、年末年始
料金:コレクション展示は大人410円(企画展は要確認)
住所:安曇野市穂高5957-4
電話:0263・82・8000
営業時間:11時〜17時
定休日:月曜(休日の場合は翌平日)
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※2018年度社会教育調査統計表(文部科学省)で、長野県内の博物館・美術館の数が345館で日本一であることが発表された。
提供/JR東日本 文/片山 修