※この記事は「ダイム」に掲載されたものです。
大阪府の中央部東寄りに位置し、大阪市の近郊都市として人口20万人を超える大阪府八尾市。高い技術力と製品開発を持つ中小企業を中心とした「ものづくりのまち」として有名な都市だ。
そんな八尾市で、地元企業と様々なジャンルのクリエイターが力を合わせて企画・開発から商品化までを目指す共創モノづくりプログラム「YAOKONTON」が2022年にスタートした。
このプロジェクトは、八尾市市内の企業を対象に、自社ブランド事業や新規事業開発の支援を行い、各企業にとっての新規市場開拓や事業構築を行っていくために企画された。
2年目となる2023年は八尾市にある10社の採択企業が参加し、メンターとして京都芸術大学、電通、大阪に拠点を構えるデザインスタジオのMOTON、BtoC商品デザインを中心にブランド企画やロゴデザインなどを手がけるデザイン会社のYといった団体や企業が参画。
さらにプロダクトデザイナーやコミュニケーションプランナー、ファッションデザイナーやおもちゃクリエイターなど様々なジャンルの人材も参加してプロジェクトを盛り上げている。実はDIME編集部もサポーターとして参加することになったので、その模様をレポートしていきたい。
大阪府八尾市は、全国トップシェアの出荷額である歯ブラシ、そのほか石鹸やフライパンといった日用品から、自動車や家電のパーツといった最新技術の部品まで、さまざまなものを製造する企業が集まる「ものづくり」の宝庫といえる街。
今回は、異業種のプロフェッショナルと八尾市内企業がこれまでになかったコラボレーションをすることで世の中にインパクトある価値を創造することを目指しており、今年に入って製品の商品化が発表されるなど成果を挙げて注目を集めている。
「YAOKONTON」は、八尾市内外の事業者とクリエイターなど異なる視点を持つモノづくりの才能が混ざり合う取り組みで、想像をしていなかったモノが生まれるかもしれないというカオスな期待感を醸成することを狙っている。
それもあって昨年からプロジェクトに参加している企業からは、これまでにない発想の製品が次々と発表されている。
鉄器加工の技術を元に考えられた『お味噌汁パン』やSNSなどで注目を集めそうな『みてるぞテープ』など、昨年から参加している企業からは、これまでの考え方では生まれなかった発想の「混沌(KONTON)」した製品がすでに登場している。ここでは開発された製品の一部を紹介する。
鉄器から鉄分摂取していた昔の知恵に着目し、鉄職人が毎日手軽に使えるように作ったお味噌汁専用の鉄鍋。シンプルなデザインと手入れがしやすい加工が特徴。鉄鍋から溶け出す鉄分は体に取り入れやすい二価鉄(ヘム鉄)なので、お味噌汁を飲みながら鉄分摂取ができる。2023年6月より、藤田金属ECサイト|FRYINGPAN VILLAGE(https://frypan-village.com/products/4-3)で販売中。
素材・デザインから「麻雀の常識」を見直し再構築し、アクリルと真鍮で作られる麻雀牌。ゲームとして楽しむことはもちろん、麻雀を通じ、大切な人との時間・空間を演出する見て楽しめるプロダクト。2024年発売予定。
誰かに見られていると思うと人は悪いことはできないという発想の元で開発された、「視線」がプリントされた「貼るタイプの防犯グッズ」テープ。万引きの多い商品棚やいたずらされやすい家の外壁などの場所にテープを貼っておけば、「視線を感じるから悪いことやめておこう」と思わせることができるという。2024年発売予定。
真鍮加工で0.01mmにこだわる精密な部品を作り続けてきた大輝製作所が、高い技術を一般生活で感じてほしいと開発したのが『WEIGHT+』。ペンの重心を組み替えて変更をすることができ、円柱なのに転がらない。真鍮由来なので経年美化して愛着のあるものになるはずだ。2023年11月発売。
ユニークな商品開発でヒット商品を生み出す木村石鹸は、「学校で掃除は習うけど洗濯は習ったことがない」という学生の素朴な疑問から、ぬいぐるみ用洗剤と洗濯方法指南、子供の洗濯へのモチベーションアップを合わせた絵本のセットを考案。「はじめては大切なものを洗おう」をコンセプトにぬいぐるみをきれいにする商品セットを開発した。
2023年の「YAOKONTON」に参加しているのは八尾市内にある中小企業10社。いずれも高い製造技術を持ち、さまざまな分野で活躍している。そんな会社の特徴や強みを紹介していこう。
金属板を回転させながら塑性変形させるへら絞り(スピニング)加工業。照明器具や工業設備(建機、空調)用、アウトドア製品など特殊用途に使用する多様なへら絞り製品を開発から試作量産まで行っている。へら絞りは習得に10年以上もかかるといわれているが、青戸金属には50年以上の経験を持つ熟練技術者が3名以上も在籍。その強みを活かす、数少ないへら絞り加工専門のメーカー。
https://www.aoto-kinzoku.co.jp/
1947年創業の老舗メーカー。靴などに使用されるハトメやジーンズに使われるボタンやリベット、ホックといった服飾関連に使われる資材を製造している。ファスニングという機能面の追求ときめ細やか彫刻と鍍金や塗装、自社金型製造など高い小型金属加工技術を保有。金属製品への刻印技術が強みで、新たな事業の柱としてエンターテインメント関連商品展開を考えている。
http://www.kanem.com/
商業印刷を中心とした出版物やコミュニケーションツールなどの総合印刷を手掛ける。折り込みチラシ、DM、カタログ、パンフレット、フリーペーパーなどの企画制作から、デジタル印刷機を使用した小ロット印刷にも対応する。
https://seeds-c.jp/
冠婚葬祭などで使われる「袱紗(ふくさ)」を専門的に扱っているメーカー。自社設備を活かして、あらゆる布製品の企画製造販売を展開。「やさしさを感じられる商品・サービスを提供し、豊かな生活を感じられる社会を作る」という企業理念を軸とした新たな旗艦商品作りを目指している。
https://hukusa.co.jp/
創業76年のふすまや建具などのマジキリの製造、販売、施工を行う会社。「マジキリによる空間の居心地向上」を掲げて、近年は一般消費者向けEC事業「和室リフォーム本舗」や和の空気を感じることのできる暮らしを提供する「waccara」という自社ブランドを展開。積極的に新規事業に取り組んでいる。今回のプロジェクトでは、「古い和室を生まれ変わらせる」商品開発を目指す。
https://t-f-kosyoku.com/
1962年の創業以来60年以上に渡り、プレス加工と無酸化炉中ろう付け加工を中心とした事業を展開。新規事業として、Logeeと呼ばれるIoTセンサーデバイスを活用した無線機器分野の製品開発もおこなっている。今回は、製品開発を通じて従業員の仕事へのプライドとやりがいといった喜びを与えられたらと考えて参加したという。
https://www.chitose-kk.co.jp/
1951年創業の金属加工メーカー。金型製造から製品加工、販売まですべての工程を一貫して行う。鍋やヤカン、コップなどの金属製品を作り続けており、約40年前に一度廃盤になった鉄フライパンを復活させて主力商品にしたり、2021年には新分野でテーブルランプや植木鉢も製造販売を開始した。「YAOKONTON」では、新コンセプトフライパンに取り組む。
http://www.fujita-kinzoku.jp/
金属に熱を加えず常温のまま圧力を加えて、削らずに金属の成形をおこなう加工方法「冷間鍛造」を主事業とする創業90年の自動車部品メーカー。日本車だけでなく海外高級車にも採用され、海外高級車にも採用され、世界中を走るクルマに使われている。近年、自社ブランド事業をすすめ、インシュレーターや、解凍プレートなどを開発。
https://minamida.co.jp/
業歴60年以上を誇る紙袋メーカー。クラフト重袋と呼ばれる産業用包装資材を取引先の希望する仕様に合わせて必要な量だけ製造、販売している。クラフト重袋自体の市場が縮小気味の中、ミニチュアの米袋(1合~5号サイズ)という自社オリジナル製品も展開中。今回のプロジェクト参加で、新たな自社デザインの見込み生産品を開発して販売するビジネスにも挑戦したいという。
https://yamaguchi-kf-pack.com/
関西を中心に建築金物、店舗用金物、展示会用金物、サイン、什器、オーダーメイド家具などの製作・設計・施工を手掛ける金属加工メーカー。培ってきた技術力を活かした自社製品開発事業への取組みを強化中で、今回のプロジェクト参加では家具などにこだわらず、自社技術を自分たちの発送していない物やサービスとして企画してほしいと考えている。
https://yokotaseisakusho.com/
今回の採択企業は、持っている技術や得意分野はさまざまだが、新たな企画に挑戦してプロダクトを開発する意欲は高い。メンターやクリエイターからの刺激をきっかけに、参加事業者が高いモチベーションで臨めば中長期視点で八尾市のモノづくり事業のブランディングに繋がっていく可能性は大きい。地方創生と「ものづくり」の新しい取り組みとして、「YAOKONTON」の挑戦と今後の活動に注目していきたい。@DIMEでは引き続き、プロジェクトの模様をレポートしていくのでお楽しみに!
「YAOKONTON」公式サイト
https://yaokonton.jp/
構成/久村竜二