※この記事はオンライン教育情報メディア「みんなの教育技術」に掲載されたものです。
オンライン研修会「せんせいゼミナール」の講師&ファシリテーターとしておなじみの藤原友和先生が編集委員を務める新リレー連載がスタートします。毎回、全国各地の気鋭の実践者たちが交替で実践例を執筆、「時代の最先端」と言っても過言ではない提案を行います。教育の未来を担う若き先生方は、とくにご注目ください。初回は、藤原先生による序論をお届けします。
編集委員・執筆/北海道公立小学校教諭・藤原友和
みなさん、こんにちは。北海道で小学校の教員をしています、藤原友和と申します。
教員生活は24年を迎えました。現在は6年生担任、研修部として子どもたちの将来に生きて働く資質・能力をどうやって育てていこうかと奮闘する日々です。
さて、このたび縁があって小学館「みんなの教育技術」にてタイトルの通りSDGsをテーマとしたリレー連載を始めることとなりました。
2030年の「ウェルビーイング」に向かって、2023年の現在、学校でできることを読者の皆様と一緒に考えていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
SDGs(Sustainable Development Goals)は、「持続可能な開発目標」と訳されます。日本ユニセフ協会のHP(※1)では次のように説明されています。
貧困、紛争、気候変動、感染症。人類は、これまでになかったような数多くの課題に直面しています。このままでは、人類が安定してこの世界で暮らし続けることができなくなると心配されています。そんな危機感から、世界中のさまざまな立場の人々が話し合い、課題を整理し、解決方法を考え、2030年までに達成すべき具体的な目標を立てました。
それが「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」です。
2015年、国連総会において「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。そこには具体的な17の目標と、169のターゲットが示されています。アジェンダの前半には、採択に至る経緯と決意、そして目指す世界像が示されています(詳しくは日本ユニセフ協会のHPをご覧ください)。
さて、これら17の目標は互いに関連し合いながら、課題の範囲や規模、枠組みのレベルがそれぞれ異なるようにも見受けられます。
その複雑さや相互の関連性の高さ故に、一見すると未整理だったり、目標の実現が難しそうに見えたりするという「とっつきにくさ」に繋がっている事も否めません。
そこで、以下のような視点で捉え直すことによって、より相互の関係性がイメージしやすくなることが説明されています。
●5つの「P」
People(人間):ゴール1、2、3、4、5、6
Prosperity(豊かさ):ゴール7、8、9、10、11
Planet(地球):ゴール12、13、14、15
Peace(平和):ゴール16
Partnership(パートナーシップ):17
●3つの「層」
17(パートナーシップで全てを包括する)
経済:8、9、11、12
社会:1、2、3、4、5、7、11、16
環境:6、13、14、15
教室でSDGsをテーマにした授業を設計する場合、こうした「目標を整理する観点」を持つことで、指導計画に位置付けやすくなるものと思われます。後述するように、児童生徒の身近な問題として捉えられるようにするにはある程度の工夫が必要になります。上記の通りではなくとも構いませんので、17の目標の関連性については意識しておきたいところです。
あまり知られていないことですが、SDGsを達成するための取組を促すために、「持続可能な開発のための教育(ESD: Education for Sustainable Development)」を提唱し、リードしてきたのは日本です(※2)。第74回国連総会で採択された「ESD for 2030」決議の概要は以下のように示されています(太字部ママ)。
・ 2015年以降のESD実施枠組みで、世界で2,600万人がESDカリキュラムを学び、200万人の教育者がESD研修を受け、ESDの推進が大きく前進した。
・「あいち・なごや宣言」で言われたように、また、ESDが質の高い教育に関するSDGに必要不可欠で要素であり、その他の全てのSDGsの成功への鍵として、ESDはSDGsの実現の不可欠な実施手段である。
・ 国際社会に対し、幼児教育から高等教育、遠隔教育、職業技術教育まで、すべての教育段階において包摂的かつ公正な質の高い教育を提供するよう求める。
・ 加盟国政府及び他のステークホルダーが、「ESD for 2030」の実施を通じて、ESDの行動を拡大することを奨励する。
・ 「ESD for 2030」の立ち上げの国際会議が、2020年6月にドイツ・ベルリンで開催されることに注目する。
・ 2030年に向けた教育課題のフォローアップ及びレビューの場として、ユネスコが、「SDG-教育2030ステアリング・コミッティ」(日本人が共同議長を務める)の主導・調整機関の役割を引き続き務めるよう求める。
・ユネスコが、ESDの主導機関として「ESD for 2030」の実施調整を担うよう求める。
・国連事務総長に対し、第76回国連総会(2021年)にて、本決議に基づく実施状況レポートを提出するよう求める。
現行の「小学校指導要領解説 総則編」においても「付録6」に「現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容」の例が46ページに渡って示されています(※3)。
その内容に立ち入ることはしませんが、SDGsの目標17に直結するものが並んでいます。と言うことは、SDGsの授業を年間指導計画に位置付ける際に、既にそのための枠組みがある程度準備されているということでもあります。
また、同じく「解説」の「特別の教科 道徳編」においてはより明示的に「現代的な課題」の枕詞として「持続可能な発展などの(※4)」というSDGsを指す表現がなされています。
そこでは、「環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な問題があり、これらの問題は、生命や人権、自然環境保護、公正・公平、社会正義、国際親善など様々な道徳的価値に関わる葛藤がある」と、道徳科で扱う内容との関連が深いことが示されています。
加えて、最近では中央教育審議会が「次期教育振興基本計画について(答申)」(令和5年3月8日)を取りまとめ、続く6月に閣議決定されました。答申の中にも「持続可能な社会の創り手の育成に貢献するESD(持続可能な開発のための教育)の推進(※5)」が盛り込まれています。
さらに答申では「調和と協調」を基調とする「日本型ウェルビーイング」にも相当数の紙幅を費やして説明を試みています(※6)。
閣議決定された「教育振興基本計画」ではさらに踏み込んで「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上」を今後の教育政策に関する基本方針に据えています(※7)。
つまり、現在の学校教育をどのように展開しようとするのかという基本的な施策の中にSDGsを推進するための枠組みが既に埋め込まれていると言えるでしょう。
ここまで、SDGsに関わるややお堅い話が続きました。ここからは、実際の授業づくりに関わって大切にしたい視点を述べていきたいと思います。
本連載を開始するにあたり、私たち執筆陣は事前に学習会を開催しました。2023年5月13日(土)、19:00〜21:30、6本の模擬授業とそれぞれの検討、そして授業づくりのために大切にしたいことなどについて率直な議論を交わしました。
参加者は小学校の教員を中心に、北は北海道から南は沖縄までの20数名です。初任段階の若手から、教員歴30年を超えるベテラン、研究者、既に著書を何冊も出している有名な実践家まで様々でした。
そのような多様な参加者が授業づくりについてじつに多面的・多角的に話し合う中で見出されてきた視点が以下のものです。
SDGsは扱っている問題が大きく、17の目標もそのままでは子どもが自分事として考えにくい場合が多いようです。そこで、子どもが身近に感じられる素材を教材化する必要があります。
また、ここでいう距離感は「心理的距離感」「物理的距離感」の両方を含みます。子どもの生活の中からSDGsにつながる教材を見つけるようにすることがSDGsの授業を成功させるポイントです。
子どもとの距離が近い教材を用いて、子どもが自分事として捉え、活発な話合いがなされたならば、教師は手応えを感じ、「今日の授業はまあまあの及第点だった!」と自信を持つことができるかもしれません。
しかし、ここで気を付けなければ「活動あって指導なし」の授業になってしまいます。その授業のねらいはなんだったのか、どんな指標をもって資質・能力が育ったといえるのかを明確にする必要があります。
SDGsで取り扱われている課題は、複雑に入り組んでいて解決までは遠い道のりに感じられるものばかりです。
そのあまりにも強い葛藤に「シンプルな解決策」「これで万事解決」と言う強力な一手に引き寄せられてしまうことも想定されます。安易な解決法をとることは、その陰にある問題を見えなくさせてしまう危険もあります。
簡単には解決できない課題を辛抱強く考え続ける「ネガティブ・ケイパビリティ」への視点を持つ必要があります。
ここまでに述べてきた視点に繋がる視点です。子どもがこれまでにどの教科でどんな学びを積み重ねてきたのか、ここで扱ったSDGsの内容が今後、どのような時間の学びにつながっていくのかという、教科横断的な学びやカリキュラム・マネジメントへの視点(※3を参照)が大切になります。
そうすることで、熱心な一人の教員の頑張りに閉じることなく、指導計画に位置付けることを通して「学校の財産」となります。
他教科・他領域との繋がりや、身近な教材を用いることを意識した場合、教科書ではこう習った「けど」、うちの近くの○○ではこうだったというギャップが見つかることがあります。
また、複数の資料を比較して考えると、一般的な知見とデータとの関係が思っていたのと違うという場合もあるでしょう。子どもたちの「世界を見つめる目」がひっくり返され、新たな知見が上書きされていくような教材配列・発問・学習活動の構成を工夫します。
全39回を予定している本連載では、17の目標それぞれについて、二人の教員が実践報告を行います。
つまり、34回分が「SDGsの授業づくり」の実践例となります。一つの目標に対して二人の実践報告者がいることで、多面的・多角的な実践例を蒐集することができると考えました。
それに加えて、連載36〜39では「SDGsの授業づくり」全体を包括する視点で以下のような内容での執筆をお願いしています。
<連載36>「SDGsの授業」における教材開発をどうすすめるか(中條佳記)
<連載37>「SDGsの授業」における学習評価をどう設計するか(岡田広示)
<連載38>「ウェルビーイング」に向けたインクルーシブな学びの場(郡司竜平)
<連載39>「世界を見てきた目」でSDGsの授業をつくる(渡辺道治)
それでは、いよいよ次週から「SDGsの授業づくり」、実践編のスタートです。
2030年まで残された時間はわずかとなりましたが、その先も続く幸せな社会の基盤をつくるため「イマココ」でできること、しなければならないことを読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
次回、「実践編」の初回、「Goal1『貧困をなくそう』を学ぶ授業デザイン」は沖縄から次呂久真司先生の報告です!
※1 公益財団法人日本ユニセフ協会HP「SDGs CLUB」(https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/about/)2023/05/14取得
※2 文部科学省HP、令和元年12月25日、「『持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)』について ~第74回国連総会における決議採択~」(https://www.mext.go.jp/unesco/001/2019/1421939_00001.htm)
※3 文部科学省、2017年、『小学校学習指導要領解説 総則編』、pp.204-249
※4 文部科学省、2017年、『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』、p.99
※5 中央教育審議会、2023年、「次期教育振興基本計画について(答申)」、p.14
※6 同書、pp.9-11
※7 文部科学省、2023年、「教育振興基本計画(閣議決定)」、pp.8-10