※この記事はオンライン教育情報メディア「みんなの教育技術」に掲載されたものです。
全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載第2回。今回の提案者は、沖縄の離島の学校にご勤務されている、次呂久真司(じろく・しんじ)先生です。
執筆/沖縄県公立小学校教諭・次呂久真司
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和
はじめまして。沖縄本島よりさらに南へ行くと黒島という島があります。その島の中心にある小中併置校。そこが、私の勤める黒島小中学校です。
私の名前は、次呂久真司 (じろく・しんじ)と申します。もう一つの名前は、小説家としてのペンネームで、「つむぐ」と申します。私は、教員をしながら作家活動をしている、ちょっと変わった人です。どうぞよろし くお願いします。
私の勤務校は小中併置校で、極少人数での授業を行っております。今回紹介する授業も5・6年生を合わせて計3名の児童に対して行いました。
今回は、SDGsのGoal1「貧困をなくそう」について、社会科の授業で知識・理解を深めつつ、道徳の授業で道徳的態度を育てたいと考え、実践しました。
最初に、SDGsのGoal1「貧困をなくそう」について解説します。
そもそも貧困とは何か。世界銀行による国際貧困ライン(貧困を定義するためのボーダーライン)では「1日1.90米ドル未満で生活する人々」と定義づけされています。その貧困の中でも世界の10人に1人が「絶対的貧困※1」であり、日本の7人に1人が「相対的貧困※2」と言われています。
ユニセフと世界の分析によると、世界には絶対的貧困の状態の人が7億960万人います。そのうち約半数が子どもで3億5600万人にのぼります。
(朝日新聞サイト「SDGs Action」)
世界では、情勢が不安定な国や紛争の影響を受ける国に暮らす子どもの貧困が目立ちます。そして、日本では子育て中の世帯所得の低さや就労支援などの援助が充分ではないことが要因とみられます。
※1 絶対的貧困…必要最低限の生活水準が満たされていない状態
※2 相対的貧困…ある地域社会の大多数よりも貧しい状態
教科:道徳
主題名:世界の人々と共に 教材名:すしざんまい木村清社長の思い
価値項目:C 国際理解、国際親善
ソマリアの海賊をなくすために、すしざんまい木村社長が考え行動したことを通して、同じ人間として助け合おうとする気持ちを理解し、SDGsの「貧困をなくそう」という思いの素晴らしさに触れることで、国際親善に努めようとする心情を育てる。
ソマリアの海賊を無くすために、木村社長が考え行動したことを通して、同じ人間として助け合おうとする気持ちを理解し、SDGsの「貧困をなくそう」という思いの素晴らしさに触れることができたか。
板書型指導案
※板書型指導案……授業に必要な項目を一つのシートにまとめた略案。板書型指導案の良さは、授業を俯瞰して見ることができる点である。板書を含めた授業全体が、このシート1枚に凝縮されているため、主発問や板書の工夫などを俯瞰した目で確認することができる。
「すしざんまい木村社長さんみたいにお金を稼いでいる立場になったら寄付とかしたい」
<評価の視点からの見取り>
企業努力として、貧困をなくすためには、寄付などをして「助け合う」ことが大切だと気付くことができました。
「お金がないせいで、海賊になったりしないように、誰かを傷つけてしまう前に私の絵で元気にさせたい」
<評価の視点からの見取り>
貧困地域の抱える「影の面」に思いを馳せ、自分の絵で勇気づけたいと感じることができました。
「お金がない人たちのために、使わなくなったものとかを無料で売ったりしていけたらなと思いました」
<評価の視点からの見取り>
貧困について知り、得た知識の中から「今の自分にできることは何だろう」と課題を身近に捉え、実践できることを具体的に考えることができました。
<3名の子どもたちの考え>
事前学習として、社会科の授業で「世界の貧困について調べる」をめあてに3時間の調べ学習を取り入れました。調べ学習では、ソマリアを含め、アフリカの極貧困地区の暮らしの様子や、日本にも貧困で苦しんでいる人がいることに児童たちは驚いていました。
中でも、沖縄県が貧困率の高い県であることに、貧困を無くすためには、どうしたらいいのだろうかと、調べる児童もいました。児童らは、互いに得た情報を教え合ったり、気付いたことを記録したりして主体的に活動していました。
また、教師側から小出しにSDGsのゴールについて伝えたり、貧困をなくすために、今世界で取り組んでいることを少しだけ紹介したりして、「貧困をなくそう」の意識付けを行いました。
児童の振り返りでは、「日本にも貧困があって、その中でも沖縄が一番貧困だということに驚いた」という言葉がありました。この言葉から、貧困は遠い国だけの話ではなく、身近な出来事として捉えることができたと感じています。
<社会科の授業の様子>
・社会科で「貧困」について調べたことで、世界の貧困と日本の貧困を比較するなどの視点を持たせることができました。また、ソマリアの貧困について事前に調べている児童がいて、本時の教材を身近に感じている児童もいました。
・道徳の授業では、「木村社長の考え」を聞き、自分だったらどうするかを「〇〇社長の考え」として発表させることで、「自分にできることは何だろう?」と、考えさせることができました。
・事前の社会科では、SDGsについて明確に触れていなかったため、道徳の導入時にこれまで小出しにしてきたことを再度確認しながら、SDGs「貧困をなくそう」の説明を行いました。それにより、コンパクトな導入ができていなかったことが課題です。
・事前学習やその他の活動の中から「貧困」について、児童が身近に感じていることをもっと引き出し、それを教材化できたら、さらに理解を深めることができたと思います。