※この記事は「DIME」に掲載されたものです。
【個人事業】×【個人事業】型
ブドウ農園を営みながら、カフェやアパレルの事業も展開している〝複業農家〟の南谷雄大さん。カフェの仕事に携わる中で磨いたデザインのセンスをフィードバックし、農家の仕事に若者を次々に呼び込むなど、一線を画す複業が注目を集めている。
南谷農園
南谷雄大さん
1984年生まれ。『複業農家。 次世代に農業をバトンタッチする: 今日はバリスタ 明日はファーマー』(トキツカゼ出版)の著者。
コンサルティング会社や外資系製薬会社でキャリアを積み、マーケティングなども学んだ南谷さん。農業を始めたきっかけは、若い世代の深刻な農業離れだった。
「コンサルティングで培った経験から農業に大きな可能性を感じ、大好きなブドウの農家になろうと決意しました」(南谷さん)
若い世代にとって農業は〝キツイ〟〝汚い〟〝稼げない〟というイメージが強い。それを払拭したいという思いから、農園の一角でカフェの運営も始めた。
「農業に魅力を感じてもらえるような、オシャレで本格的なカフェを目指しました」(南谷さん)
SNSを通じたマーケティングにも注力。遠方の若者にも農業の魅力を伝える手段として、アパレルのブランドも立ち上げた。今では、カフェのコンセプトに共感した顧客が県内外から続々と訪れる、人気店に成長しているそうだ。
「収入バランスは当初『農業7割・カフェ3割』で見積もっていました。けれど実際は『カフェ6割・農業3.5割・アパレル0.5割』になっています」(南谷さん)
これら3つの仕事が想像以上の相乗効果を生み出しているという。例えば年間を通してカフェの営業があることで、毎年10〜3月までの農業のオフシーズンでも継続的な雇用を実現できるようになった。
「継続して働くスタッフがいることで、新規採用の手間や教育の負担も減り、農業の安定した運営が可能になりました。農業とカフェの両方に従事できることを魅力に感じ、意欲の高いスタッフが集まってくれています」(南谷さん)
カフェのリピーターが増えたことでブドウの需要も高まり、農業の収入増につながったことも相乗効果のひとつ。さらに複業による“リスク分散思考”は、メンタル面でも大きな強みになっている。
「天災などによるリスクがどうしても避けられない農家にとって、カフェやアパレルの収益は大きな支えです。どの事業も全力で取り組めばシナジーが生まれるという経験は、よいモチベーションにもなっています」(南谷さん)
「農作業をするのは毎年4~9月の約5か月間。1年の中では意外と自由時間も多い」と語る南谷さん。上記は5月某日の予定で、朝夕に畑の水やりなどの作業をこなし、日中はカフェのバリスタに。
農園の一角に併設したカフェ「Sticks Coffee」では、フェアトレードで仕入れたスペシャリティーコーヒーを使用。県内外からも老若男女が訪れる人気スポットで、農家に興味を持つ若者から相談を受けることも。
約1.2haの広大な土地でブドウを栽培。近隣の先輩農家にも知恵を借りながら、愛情を持って育てているという。
南谷さんがデザインした、Tシャツやスエットパーカ、小物などを展開。農園やカフェを周知する役割を担っている。
「『何でも手を出す人』と揶揄するような周囲の声を気にせず、自分が本当にしたいことに挑戦しましょう。そこから生まれる『負けず嫌い』のメンタルが複業を成功させる秘訣です」(南谷さん)
取材・文/清友勇輔