well-being みんなの教育技術ウェルビーイング教室

ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン~ #03 「Goal 1 貧困をなくそう」その2|古舘良純 先生

2024/10/29

※この記事はオンライン教育情報メディア「みんなの教育技術」に掲載されたものです。

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載第3回。今回の提案者は、岩手県の古舘良純先生です。

執筆/岩手県公立小学校教諭・古舘良純
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

はじめまして。古舘良純(ふるだて・よしずみ)と申します。岩手県の公立小学校に勤務しています。昨年度まで7年連続6年生の担任をしておりましたが、今年度は久しぶりに5年生の担任をしております。

勤務校では、第5学年において総合的な学習の時間に「SDGs」に関する学習が計画されています。
また、校内研では道徳を絡めた実践を展開していることから、今回の実践は私自身にとって非常に有意義なものとなりました。
貴重な機会を提供してくださった藤原先生、メンバーの先生方に感謝申し上げます。

2 SDGsのゴールNo.1についての解説

Goal:1「地球上のあらゆる形の貧困をなくそう」

日本ユニセフ協会「持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB」を閲覧してみると、世界では、6人に1人の子どもたちが、「極度にまずしい」暮らしをしている(2021年2月時点)と書かれています。

また、2030年までには世界中で「極度に貧しい(1日に使えるお金が約135円未満で生活しなければならない状態)」暮らしをしている人をなくすというターゲットが掲げられています。

特に、発展途上国や開発が遅れている国を対象とした目標であるように感じます。
日本でも、生活レベルに差のある地域があると思いますが、私が勤務している学校の子どもたちは「極度に貧しい」という実態ではありません。
私たちが考えるべきは「ターゲット2」に書かれている「それぞれの国の基準でいろいろな面で『貧しい』とされる男性、女性、子どもの割合を少なくとも半分減らす」という文言です。

つまり「日本の子どもたちにおける貧しさとは何か」を「いろいろな面」で考えることがSDGsの授業プランにおいて極めて重要だと考えています。

3 授業の実際

⑴ 学年:第5学年31人

⑵ 教科及び領域:道徳科 内容項目D22[よりよく生きる喜び]

⑶ ねらい

「貧しい」という言葉を理解し、世界の子どもたちの貧しさや自分たちの貧しさに目を向け、「今自分にできることは何か」を考えることによって、「貧困をなくそう」という目標を自分ごととして捉え、達成しようとする実践意欲を育てる。

⑷ 主題「貧しさってなんだろう?」(オリジナル)

⑸ 授業展開(含む授業の様子を示した画像/肖像権・著作権に注意)

<1>「貧しい」という言葉にどんなイメージを持っていますか?

物が買えない
家がない
食べ物がない
服がボロボロ
学校に行けない
バカにされる
当たり前ができない

子どもたちからは、金銭面・生活面に関する貧しさが多く出されました。中には、バカにされるという心理的な面や「当たり前」という言葉が出され、授業後半の展開につながる発言もありました。

<2>「貧しい」の反対ってなんだろう?

お金持ち
裕福
大富豪
幸せ

やはり子どもたちは、金銭の有無によって貧しさが決まると感じています。ここではまだ、自分たちの貧しさにはあまり目を向けておらず、世界的な貧しさの認識にとどまっている状態です。

ここで、日本ユニセフ協会「持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB」のウェブページを画面に映し、「貧困をなくそう」の概要について確認しました。

<3>写真を4枚見せます。「貧しい」と思ったら◯、貧しくはないと思ったら「×」を書きましょう。(アフリカの子どもたちの厳しい生活の様子を4枚見せる。この時約5秒間隔で写真を提示する)

その後、◯の数を聞きました。内訳は次のとおりです。

4つ………7人
3つ………8人
2つ………13人
1つ………2人
…………1人

半数以上が「貧しい」と認識しているようでした。中には、「金銭的な貧しさが全てではないかもしれない」と考え始めている子もいました。

その後、「私にできることは何だろう?」と問うと、「募金に協力する」「給食を残さない」「今あるものを大切に使う」などのような答えが返ってきました。

<4>また写真を4枚見せます。「貧しい」と思ったら◯、貧しくはないと思ったら「×」を書きましょう。(先進国の子どもたちの写真を見せる。物には恵まれているが、退屈そうだったり、喧嘩をしたり、うつむいたりしている様子を4枚見せる)

その後、◯の数を聞きました。内訳は次のとおりです。

4つ…………0人
3つ…………4人
2つ…………5人
1つ…………5人
不明…………0人
わからない…17人

ここでも、約5秒間隔で写真を提示していきました。子どもたちは「先生、待って! わからない!」と言いましたが、問答無用で写真を流し、判断させようとしました。

子どもたちは「決めきれない」様子で、挙手させた際も、判断できていませんでした。「0」を聞いた時には、教室が騒然としていました。内訳のとおりです。
また、「わからない」という子たちの言葉に、すでに決めてしまった14人も揺れ動いていました。「もしかしたら貧しいかも?」と思い始めたのです。

子どもたちにとって「貧しさ」という定義が崩れ、再構築され始めた瞬間でした。子どもたちから出された意見は次のとおりです。

お金は持っていそうだけど、精神的に苦痛を感じていそうだ
アフリカよりは裕福だけど、心が傷ついていそう
気持ちが沈んでいる気がする
友情とか、友達関係が悪かったら貧しいんじゃないか

その後、「自分にできることは何だろう?」と問うと、

今できることに一生懸命になって頑張る
物とか、友達とかに感謝して過ごす
友達に笑顔で接するようにする
「ありがとう」をたくさん言えるようにしたい

など、前向きな意見がたくさん出されました。

<5>最後に、さらに写真を4枚見せます。「貧しい」と思ったら◯、貧しくはないと思ったら「×」を書きましょう。(アフリカの子どもたちの満面の笑みを浮かべた写真を4枚映す。生活の様子は大変厳しそうに見えるが、真っ白な歯を輝かせている子どもたちが写っている)

その後、◯の数を聞きました。内訳は次のとおりです。

4つ………0人
3つ………0人
2つ………3人
1つ………6人
…………22人

この内訳が出た瞬間、子どもたちにとって「貧しさ」という言葉の示す範囲が変わったように感じました。
私は、ここで多くを語らず、子どもたちに作文を書かせた方が良いと判断し、ノートにこの時間で考えたことを200字以上で書かせました。

以下、作文から抜粋した内容を紹介します。

貧しい国はアフリカにしかないのかということを考えました。もし国自体がお金を持っていても、国の中には貧しい人がたくさんいるのではないかと考えました。

今日見たアフリカの子どもたちは、確かにお金はないかもしれないけれど、友情や本当の笑顔を持っていることがわかりました。もしかしたら、お金を持っていても、精神的に貧しい、心から笑えない人はいるかもしれないと思いました。

貧困をなくすために私たちにできることは何かを考えました。「貧困」の意味を知り、考えて、自分たちの貧しさと世界の貧しさは違うということがわかりました。

日本にも心の貧しさはあると思いました。もしかしたら、クラスにもそういう人が一人はいるかもしれないと思いました。一人一人が幸せになれる学級にしたいと思いました。

貧困とは何か考えました。人によって価値観が違うから、さまざまな悩みがあります。お金がある人は貧困ではない? お金がないから貧困? なぜ、貧困であることを私たちが決められるのでしょうか。そんなことを考えました。

子どもたちが「貧しい」という言葉について敏感になり始めている様子が伺えました。
授業序盤に考えた「貧しい」という感覚が随分広がりを見せたように感じます。

しかし、よりよく生きるために自分に何ができるか、どんなアクションを起こすかという実践意欲に言及する子は数名でした。道徳的なアプローチがもう少し必要だったと感じています。

⑹ 評価について

SDGsの目指す「貧困をなくそう」について理解できる
世界の貧困と自分たちの貧困について考え、気付くことができる
自分たちにできることを考え、実践意欲を高めることができる
他者や集団のために自分の力を尽くせる人間になりたいと思える

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

【成果】

・写真を短時間で連続的に提示することにより、子どもたちの関心が高まった。また、◯か×かを自己決定させることにより、考えを揺さぶることもできた。

「写真→◯×→理由→私にできること」のサイクルを3回実施したことで、子どもたちの思考が回数を追って深くなっていった。徐々に「貧しい」という言葉を崩し、再構築しようとする子どもたちがいた。

200文字という制限を加えたことによって、子どもたちは考えたことをしっかりと作文にすることができた。

【課題】

SDGsとしてのアプローチは良かったが、道徳としての切り口が弱かった。授業後半はSDGsから離れて道徳的に授業を構成しても良かった。

スピード感を持って自己決定を促したため、思考が追いつかない子がいた。今回は全体の進度を優先したが、時には全員でじっくり進むことも必要かもしれないと感じた。

「貧しさ」という言葉について考えることはできたが、学級の定義があると、焦点化して考えることができ、深まりが生まれたかもしれない。オープンエンド的になり、感想が二極化する原因となる。

【他教科・他領域とのつながり】

「はじめに」でも書きましたが、本校の5年生は総合的な学習の時間にSDGsを扱うことになっています。今回は道徳科での実践となりましたが、国語科や社会科での関連が十分可能だと学年団で相談しているところです。

SDGsを取り入れるという感覚ではなく、全教科をSDGsが包括していると捉えると、どの教育活動にもその側面があると感じています。

教師だけではなく、子どもたちが「これ、SDGsですよね!」と日常を切り取れるようなレベルまで、子どもたちの心に根ざす「SDGsの授業プラン」を練り上げていきたいと考えています。