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ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン ~#04 「Goal 2 飢餓をゼロに」|藤原友和 先生

2024/11/12

※この記事はオンライン教育情報メディア「みんなの教育技術」に掲載されたものです。

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載第4回。今回からはGoal 2。提案者は、北海道の藤原友和先生です。

編集委員・執筆/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

皆さん、こんにちは。北海道で小学校の教員をしている藤原友和と申します。
この連載の企画と編集を担当しています。この連載は「1つのGoalに対して2人が実践を書く」という建て付けになっています。
読者にとっては複数のアプローチによる授業づくりが見られることで、「SDGsの授業プラン」を多角的に捉えることができるという利点がある一方で、執筆者にとっては「比較検討される」というなかなかにハードルの高い企画となっております。
特にGoal 2に関しては、私が「道徳授業づくりの大先輩」と尊敬してやまない木原一彰先生とのマッチアップとなっています。正統派の授業づくりは木原先生にお任せするとして、私は変化球で迫ってみたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

2 SDGsのGoal 2についての解説

Goal 2は「飢餓をゼロに」です。

本文は「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」とされています(※1)。日本ユニセフ協会のHPを確認すると、「深刻な食糧不安を抱える人口の割合は11.7%」、「中程度の食糧不安を抱える人口の割合は17.6%」と、実に世界の人口の4分の1以上が何らかの不安があることが読み取れます。
さらに2020年の時点では飢餓人口が7億2170万人にも上っていて、この先さらに増えることが予想されるとの説明がありました(※2)。

この問題に関して、SDGs Goal2では5つの達成目標と、目標達成のための3つの方法を示しています。これらをまとめて「ターゲット」と言いますが、ここでは最も大切なターゲットであると思われる「2-1」を紹介します。

2-1 2030年までに、飢えをなくし、貧しい人も、幼い子どもも、だれもが一年中安全で栄養のある食料を、十分に手に入れられるようにする。

ターゲットの1つ目に「2030年までに飢えをなくす」と高らかに宣言されています。
もちろんその道は険しいものですし、日本で生活していると飢餓の状態にある生活を具体的に想像することは簡単なことではありません。

そして子どもたちと一緒に「自分にできることを」と考えるにしても、どこか生活実感から離れた理想論を語りがちになってしまうのではないかという危惧もあります。

つまり、課題と子どもたちとの間に「距離」があるテーマだと思われます。
一般的に、テーマと子どもたちとの間に距離がある場合は、教材を工夫して身近な素材を探すというアプローチが取られることと思います。
しかし、冒頭で述べたように今回の実践は「変化球」です。距離があるなら、距離があるままで教材化し、「子どもが自ら調べたくなる」ような提示の仕方をしてみようと考えました。小学6年生、道徳の授業です。

3 SDGsのGoal 2を扱った授業の実際

・教科及び領域 特別の教科 道徳
・主題名 自分で考えて
・ねらい 「昆虫食」にまつわる多様な意見について考えることを通して、偏見や予断を廃し、公正・公平な立場で情報を集め主体的に判断しようとする心情を養う。【C-13 公正、公平、社会正義】

授業の冒頭で、SDGsの17のロゴを提示し、「知っていること」を交流しました。子どもたちの中には「全部暗記していた」「家庭学習で調べたことがある」という子もいて、高い関心を示す一方で「知らない」「何となく見た事はある」という反応もありました。もっている知識は個人差が大きいようです。

そこで、SDGsがSustainable Development Goalsの略語であり、「持続可能な開発目標」と訳されていることや、2030年にこうなっていたいと世界が考える「成長戦略」であることを説明します。

続けて、本時のテーマである「Goal 2 飢餓をゼロに」のロゴを提示します。
前節で示した飢餓人口についての円グラフを見せながら、学級の児童数30名に置き換えた時に何人くらいが「深刻な飢餓」の状況にあるのかを説明しました。生命の危機に晒されているレベルで飢えているのは3人、何らかの不安を抱えているところまで含めるとさらに5人が該当します。30人中8人に起立してもらうと、思ったよりも割合としては大きいことが視覚的に捉えられます。

さらに「栄養不良で病院の栄養集中治療室に入院し、ユニセフの支援による治療を受ける2歳のラキアトウちゃん(マリ、2022年8月撮影)/© UNICEF/UN0701215/N’Daou」の画像をモニターに映し出すと、子どもたちは声を失います。一瞬の間の後で「かわいそう…。」というつぶやきが漏れてきます。

発問 どうやって解決しますか?

この発問に対して、子どもたちは「農業をしっかりやる」「海で魚をとる」「フードロスを無くす」などの考えを発表しました。どれも大切なことである、と子どもたちの発言を受けつつ、「実は、国連食糧農業機関(FAO)が2013年に解決方法としてこんな手段があると発表しました(※3)。それが…」
「昆虫食です」

プレゼンテーションソフトでこの文字を映し出すと、教室には悲鳴に近い声が上がります。さらにスライドを進めます。

「ええー」
「やだー!」
「美味しいなら(食べられる)」

子どもたちの反応はさまざまですが、徳島県のある学校では既に2回、試みられていることを紹介します(※4)。

そして、昆虫食のメリットとデメリットを整理した表を提示し、実際の給食の画像も映し出しました*4。
「これならいける」
「どこに虫入ってるの?」
「入ってるって思うだけで無理」

意外と「普通」なメニューに子どもたちは驚いた様子でした。
ここで、次のように説明します。

説明 給食を提供したのは徳島県立小松島西高等学校でした。食物科の生徒が調理し、食べるか食べないかは個人の判断に任されたそうです。ところが、このニュースが流れると、途端に記事は「炎上」しました。

「なんで?」
「子どもに食べさせるな、というわけです。」
「子ども? 高校生でしょ?」

やはり「虫を食べる」という行為は看過し難い、と感じる人が一定数いるようです。その嫌悪感のあまりに否定的な反応が巻き起こってくるのは避け難いと言えるでしょう。しかしながら前述のFAO報告書のように、その有効性を認める立場もあります。
フリーライターの武藤弘樹氏は下記のように「コオロギ食に対する主たる批判と、反論」について整理しています(※5)。

「昆虫食の給食」についての「炎上」を冷静に観察すると、思い込みや感情的な反応も含まれていることが見えてきます。そこで、次のように問いました。

発問 なぜ、簡単な反論さえ出なかったり、感情的な批判になったりするのだろう。

毎日のように食べていないから心配しているのではないか。
自分が正しいと思いこんでいたり、共感者を求めたがったりしているから。
飢餓のことを知らないから。
虫を食べ物だとは、あまり思っていないから。
自分は関係ないと思っていて、勝手な思い込みをしたり偏見を言ってるから。
誰にもバレないと思っていたりストレスが溜まってたりするから。あと高校生の味方してる俺かっこい〜とか思ってるかも。

さすがに日常的にインターネットを使用している子どもたちだけあって、本質を突いた考えがたくさん出されてきました。子どもたちの意見をまとめると、「同調圧力」「情報不足」「無関心」「思い込み」がよくない判断や表現につながると考えているようでした。
重ねて次のように問います。

発問 自分で正しく判断するために大切なこととは何だろう。

まず批判する前に本当にその考えがあっているか、自分を疑ってみることが大切だと思う。
情報を集めて、よく考えてからコメントする。
飢餓の情報を集めてからコメントする。
自分の意見をすぐ書くのではなく、ちゃんと調べてみてから思ったことを書くといいと思う。
まず、情報を集めてから言う。自分の意見だけではなく、相手(今回だと高校生)の立場 になって考える。内容を詳しく見て理解をした上でコメントする。
タイトルだけじゃなく内容をしっかり見た上で、おかしいと思ったら批判する前に相手の気持ちを考えて、それでもおかしいと思ったら批判する。
情報をしっかり知ってからコメントする。相手の気持も考える。
本当の内容をよく知ってから思いを言う。
周りに惑わされないで調べて正しい情報を知って、その動画や記事にあったコメントをする。
周りの立場を考えてから自分の思ったことを言い、おかしいことはおかしいとちゃんと言う。周りの意見も取り入れる。

「デジタルネイティブ」世代の子供たちにとって、インターネット上の情報に対してどう向き合っていくかということは日常的な問題です。今回の授業でも努めて冷静に判断しようとしている姿が見られました。

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

授業の振り返りには、下の表のように書かれていました。

実際に昆虫食を試してみるかどうかは措いておくとして、結局は「自分で判断する」ということが必要なのだろうと思います。そして、その際、自分の直感的な反応は否定する必要はありませんが、一方に偏らずに情報を集め、主体的に判断することが大切です。

私たち、指導者の世代にとっても、「虫を食べる」ことはやはり一般的ではありません。もちろん、食文化として昔から食べられてきた地域があることは頭の片隅にはありますが、多くの人にとって「抵抗がある」というのが正直な反応なのだろうと思います。

しかしながら、飢餓の解消に効果があるのだとしたら検討の余地さえ残さず否定することには慎重でありたいとも思います。
授業を終えた後、子供たちは一斉に「昆虫食」を検索ワードとして実際にはどんな食べ方があるのか調べ始めていました。本時のねらいである「偏見や予断を廃し、公正・公平な立場で情報を集め主体的に判断しよう」としている姿なのではないかと思います。

ネットに何かコメントするときは、考えてからコメントすることが大事だと思った。あと、昆虫食にはメリットが多いことが分かった。
虫は苦手ても餓死寸前になったら全然食べれると思った。
虫は苦手で、食べたくないとは思っていましたが、全然ご飯を食べれない人の気持ちを考えると多分食べれると思いました。全然ご飯を食べれない人がたくさんいてびっくりしました。
昆虫を食べるに当たって少し抵抗はあるけど、今回の勉強で少し興味を持ったので詳しく調べたいと思いました。
昆虫食はいいと思うけど毒はないかとかそうゆうのをちゃんと確認した上で食べたいと思った。
昆虫食は世界の「飢餓」を救うには有効だと思う。だけど昆虫には抵抗がある人もいるだろうからまず初めは食べれる人から始めて、慣れてきてから無理な人はチャレンジしたら良い。
昆虫は最初はあんまりと思ったけど色々な話を聞いて最終的に自主的には食べられないけどどうしてもとなったら食べれるようになった。
昆虫食は、あまり食べたくないと思っていたけど、授業をして昆虫食には、デメリットもあるけどメリットもあることがわかった。
昆虫食は自分的に良いと思う。
人の意見は人それぞれだけど周りに巻き込まれないようにしたい(虫は余裕で食える♡美味しくいただきます)。

社会科では、世界の文化や暮らしについて調べる単元があります。本時の学習が生きて働き、広い心で様々な文化について知ろうとするきっかけになることを願っています。

【参考文献】
*1 村上芽・渡辺珠子、2019年、『SDGs入門』、日経文庫、p.22
*2 日本ユニセフ協会HP、「SDGs CLUB」、「SDGs 17の目標」、「2 飢餓をゼロに」 URL:https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/2-hunger/ 2023年10月28日取得
*3 food and agriculture organization of the united nations、2013年、“Edible insects: future prospects for food and feed security” URL:https://www.fao.org/3/i3253e/i3253e.pdf 2023年10月28日取得
*4 集英社オンライン、2023年3月3日、〈徳島・コオロギ給食騒動〉コオロギ食品加工会社に「菌は大丈夫?」「補助金をもらってる?」全部聞いた! 高校は「保護者からのクレームは1件もないですが、昆虫食を扱う予定はありません」  2023年10月28日取得
*5 DIAMOND online、2023年4月8日、武藤弘樹、「コオロギ食が炎上!SDGsゴリ押しを跳ね返す『拒否感』と向き合う正念場」
 URL:https://diamond.jp/articles/-/320947 2023年10月29日取得