※この記事はオンライン教育情報メディア「みんなの教育技術」に掲載されたものです。
全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回からは「すべての人に健康と福祉を」を学ぶ授業づくりについて提案します。提案者は、北海道の小林雅哉先生です。
執筆/北海道公立小学校教諭・小林雅哉
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和
北海道で公立小学校教諭をしております。小林雅哉と申します。
教職21年目。現在は6年担任と、校内研修を担当させていただいております。今年度の勤務校の研修でも、「カリキュラム・マネジメント」を重要な柱の1つとして挙げています。
社会で起こっていることと教科の学びを関連させながら、子どもたちが学びたいと思う授業をつくることを目指しています。
Goal 3では、国籍や所得等に関係なく、すべての人に健康や福祉を実現することを目標としています。しかし、世界の現状を見てみると、達成できているとは言い難い状況です。
例えば、低所得国では、死因の第1位が「新生児の疾患」です。世界全体で見ると、新生児死亡率は、1990年の37/1000人から2018年には18/1000人と半減し、良い方向に進んでいることは間違いありません。
しかし、ターゲット目標32「全ての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、 2030年までに、新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。」に照らして考えると、まだ十分とはいえません。
特に、低所得国に対する技術面・設備面でのサポートが急がれるところです。
⑴学年 第6学年
⑵教科及び領域 道徳科
⑶ねらい B(7)親切・思いやり
親切を行う際には「相手の立場に立つ」ということが重要であることに気付く。
⑷教材
<1>『今度はぼくの番』(光村図書)
<2>入江貝塚9号人骨・高砂貝塚4号人骨の写真
<3>YouTube動画「バングラデシュ:ロヒンギャ難民の子どもたちを襲うジフテリア」(日本ユニセフ協会)
⑸授業展開
今回の授業は、教科書教材にプラスする形で行いました。
ここでは教科書以降の部分について紹介させていただきます。
<1>説明:2枚の人骨(レプリカ)の写真をスライドで提示~説明(写真は筆者撮影)
片方の人骨の方が、骨がとても細くなっていることに注目しました。
病気によって、体が不自由だったことが分かることを伝えました。そして、この人骨は成人のものであり、少なくとも十数年間にわたり介護を受けていたと考えられることを伝えました。
子どもたちからは「縄文時代は狩りとかをするのに、こんな体でどうするんだろう?」といった声が聞こえました。
<2>発問:あなたがこの状況で介護されるとしたら、どうされたいですか? また、どうされたくないですか?
板書の写真にあるような意見が出されました。
出された意見を見ながら、次のような話になりました。
●大人になるまで生きていたということは、ここに挙げられた「OK」な介護を受けていたのではないだろうか
●みんなが出した「イヤ」な介護だったとしても、この人を最後まで「見捨てなかった」ということは言えるのではないだろうか
●大昔の人たちにも、私たちと同じように人に親切にする心があったことが分かった
<3>動画「バングラデシュ:ロヒンギャ難民の子どもたちを襲うジフテリア」を提示
動画の中から、「自分から予防接種を受けに来る人もいますが、私たちを恐れ逃げ出す人もいます。
そのような人を探し出し、子どもに予防接種を受けさせるよう説得するのです」というスタッフの言葉に注目させ、「強制的にワクチンを打つのではダメなのだろうか?」と問いました。
話し合う中で、「緊急の場合は仕方がないかもしれないけれど、丁寧に説得しないと、人々の信頼が得られず、接種を受けてくれる人が減ってしまうのではないか」という意見が出て、多くの賛同を得ていました。
<4>今日の授業を通して「親切」や「思いやり」について考えたことを書きましょう。
子どもたちが振り返りを書き終えたところで、私からSDGsのGoal 3について、話しました。
「すべての人に健康と福祉を」という目標を達成するために、太古の昔から私たちがもっている「思いやり」の気持ちがとても大切だと思う、という教師の考えを話して終わりました。
今回の授業の前に、社会科「奈良時代の大仏建立」と関連させて「感染症の歴史」を学習しました。
奈良時代、国民の約3分の1が亡くなったという推計がある「天平の大疫病」から、天然痘の根絶、様々なワクチン開発など、医療がどう進歩していったのかを学びました。そのときにもGoal3の話をしています。
進んだ医療を必要な人々に届けるためには、根気強い関わりや、今回学習したような「思いやり」をベースにした関わりが不可欠だと考えます。社会科と道徳科を関連させることで、そのような部分にも光を当てることができたらなと思いました。
社会科で今後学習する「地球規模の課題の解決と国際協力」の単元などでも、今回の学習を関連させていければと思っています。
児童の振り返りをいくつか紹介します。
●「思いやり」は、相手の気持ちを考えたり、それに寄り添ったりすることだと思った。介護とかを「していればいい」とも思うけれど、される側は優しくしてもらったほうが嬉しいから、それができれば一番良いと思った。
●思いやりは人に信頼されるためにも必要だと思った。
●思いやりはすごい大事だと思った。その中で、適当にやることと思いやりは違って、「やさしく」「大切に」などをすることが『思いやり』だと思った。
●無理やりすることは思いやりとは言わない。思いやりとは、相手を思う気持ち。
他の児童の記述にも「相手の気持ちを考える」などの言葉が多く出てきました。
「親切を行う際には『相手の立場に立つ』ということが重要であることに気付く」というねらいは、概ね達成できたかと思います。
反省点としては、資料を複数使用したために、1つ1つの扱いが薄くなってしまったように思いました。縄文人の精神性や、NGOによる支援事業などの探究へとつながるような仕掛けをもっと組み込めればよかったと思っていますが、それはまた別の時間の授業でねらっていければと思います。
【参考文献】
・外務省 Japan SDGs Action Platform
・公益財団法人日本ユニセフ協会HP
・YouTube動画:「バングラデシュ:ロヒンギャ難民の子どもたちを襲うジフテリア 」/日本ユニセフ協会
・北海道・北東北の縄文遺跡群を旅するガイド(昭文社)