※この記事は@DIMEに掲載されたものです。
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
ジャパネットグループで地域創生事業を担っているリージョナルクリエーション長崎が、スポーツを中核とした民間主導で開発を進めている「長崎スタジアムシティ」。サッカースタジアム、アリーナ、ホテル、商業施設、オフィスで構成される複合施設で、10月14日に開業する。
長崎スタジアムシティによる地域活性化に向けて連携する、リージョナルクリエーション長崎、ニューバランス ジャパン、長崎ヴェルカの3社による発表会が実施された。
サッカースタジアム「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」は約2万席の収容人員で、「Vファーレン長崎」のホームスタジアムとなる。ピッチとの距離は最短5mと、日本一近い距離が特色。
試合がない日も自由に観客席に入ってスタジアムビューを楽しむことができ、平日はピッチを開放して子どもたちが芝の上を駆け回ることもできる。
「HAPINESS ARENA」は約6000席の収容人員で、B.LEAGUE所属クラブ「長崎ヴェルカ」のホームアリーナ。クラブハウスも隣接しており、選手がプレーしやすい環境を整えている。可変式の設計で、コンサート会場や他のスポーツの公式戦の開催も可能。
「STADIUM CITY HOTEL NAGASAKI」は日本初のスタジアムビューホテル。部屋のテラスからはスタジアムが一望できる。観戦しながらサウナやプールといったリラクゼーション体験も。
ショッピングモールの「STADIUM CITY SOUTH」は約30店舗のテナントが入り、飲食、物販、アミューズメントパーク、温浴施設を備える。
長崎最大級の賃貸オフィスを擁し、長崎大学大学院の入居も決まったオフィス棟の「STADIUM CITY NORTH」。オフィスのみならず学習塾や保育園もあり、平日のスタジアムシティの人口流入を狙う。ジャパネットグループ社員が講師として登壇するツアーなども予定されており、産学連携にも力を入れていく。
「長崎スタジアムシティを通して長崎市の地域創生事業を展開していきます。サッカー、バスケットボール、イベントといた非日常の楽しみを生み出す場所でもあり、試合やイベントがない日でも利用できるため、日常での楽しみも提供します。
被爆地である長崎は平和を願う気持ちが強い街です。この地で開業したいと考えた時から、長崎にしかできない、平和に対するメッセージを伝えていくミッションが私たちにはあると考えていました。
『ピース スタジアム』『ハピネス アリーナ』は、我々だけではなくパートナー企業の理解を得られた結果、実現した名称です。サッカー、バスケットボール、エンターテイメントといったコンテンツを楽しめるのは、平和な日々があるからこそ。平和への想いを長崎から発信したいですし、その想いを日本全国、ひいては世界へ伝えられるようにしたいと考えています」(リージョナルクリエーション長崎 代表取締役社長 岩下英樹氏)
長崎スタジアムシティに長崎県初となるオフィシャルストアをオープンするニューバランスは、長崎ヴェルカのオフィシャルサプライヤーとなることも発表。
2020年に設立された長崎ヴェルカは史上最短でB1昇格を決めた注目のクラブ。ヴェルカの理念を表す言葉として、「HARD(一生懸命)」、「AGGRESSIVE(激しく積極的)」、「SPEEDY(速い)」、「INNOVATIVE(革新的)」、「TOGETHER(一体感)」 の頭文字を取った“HAS IT!”をヴェルカスタイルとして掲げている。
「長崎スタジアムシティが開業し長崎ヴェルカとして勝負の年となる4年目は、長崎のバスケットボールチームから、スポーツエンターテイメント集団へのレベルアップも目指していきます。長崎ヴェルカが掲げる“HAS IT!”を通して、地域、パートナー企業、ファンと一緒に共創していきます。
クラブでは距離的ハンデを抱えた離島の子供たちを試合に招待するB-RAVE ONE(ビーレイブワン)、ユースの育成、若手コーチを育成するVCDP(Velca Coaching Development Program)といった活動を行っており、今後ニューバランスと共に次世代を担う子どもたちの可能性を育んでいきたいと考えています。
8月30日には長崎ヴェルカの新体制発表会でユニフォームのデザインを発表します。見た目、機能性においても最高の出来上がりなので楽しみにしていただきたいですね」(長崎ヴェルカ 代表取締役社長 兼 GM 伊藤拓摩氏)
長崎ヴェルカでキャプテンを務めている、長崎県出身の髙比良寛治選手も登壇。長崎での活動について想いを語った。
「プロ選手として活動していますが、バスケットボールをやっているだけではダメだと特に長崎に来てから感じていました。未来を担う長崎の子どもたちにできることはないかと、現在、長崎県内の児童養護施設の子どもたちを試合に招待したり、バスケットボールが出来ない施設にはバスケットボールリングを提供してバスケットボールに触れてもらう機会を提供しています。今後ニューバランスと共に、子どもたちの可能性を広げる活動をさらに行っていきたいと思っています」
スポーツだけでなく日常に溶け込むブランドを目指して展開しているニューバランスでは、地域のコミュニティとのつながりを重視した戦略を推進している。
今回、長崎県初となるオフィシャルストア「ニューバランス長崎スタジアムシティ」をオープン、バスケットボールでは国内初となる長崎ヴェルカのオフィシャルサプライヤー契約を結んだ。
ニューバランスジャパン 代表取締役社長 久保田伸一氏に、地方での取り組みや長崎での展開について話を伺った。
「生活の中に深く入っていくという意味では、地域活性化や地域のコミュニティに深く根差すということは絶対に不可欠だと思っており、今回の長崎のように主要都市ではない場所は、今後より重要になっていくのではないかと考えています。
コロナ禍を経て、以前のようにショッピングは必ずしも大都市に行く必要がなくなり、地方にいてもECサイトで様々なものが買える仕組みができました。オムニチャネルが定着して、どの地域に住んでいても大都市と同じような体験ができる、同じようなものが買える仕組みをもっと作っていく必要があると思っています。
長崎スタジアムシティは、商業だけではなくスポーツやアクティビティが凝縮されて体験できるコンセプトであることに大きな魅力を感じ、我々が今後もっと手を伸ばしていくべきエリアであると感じました。
長崎という歴史の深い街に我々のプレゼンスが置かれることも非常に大事なことです。正直申し上げて、売上では大都市圏の商業施設に勝てないかもしれませんが、地方での主要な施設は『ここに行きたい!』という強い目的意識を持つ人々が集まるパワーを持っており、そこに魅力を感じています」(以下「」内、久保田氏)
――長崎ヴェルカとの関わりについて
「新ユニフォームに関する以外の具体的な取り組みは未定ですが、オフィシャルサプライヤーをきっかけとして、お互いがより発展できるチャンスとして捉えています。
バスケットボールのオフィシャルサプライヤーは国内としては初なので、これからしっかりと勉強していきたいと思っていますが、長崎にはこれだけのアリーナがあり、情熱を持ったクラブ、ファンがいます。また、バスケットボールは野球やサッカーとは違った面白さもありますので、今後より深く関わっていきたいですね。
スポーツ業界の中では、昭和は野球、平成はサッカー、令和はバスケットボールという話がよく出てきます。
野球は長い時間をかけて世界に通用する選手が出てきて、サッカーも30年ほどかけて世界中で活躍する選手が続々と登場するようになりました。バスケットボールはプロリーグができてまだ日が浅いですが、野球やサッカーよりもさらに速いスピードで、世界で活躍できる選手がもっと増えてくると感じており、非常に期待しているスポーツです。
バスケットボールはニューバランスにとって若いターゲット層にリーチできる非常に重要なカテゴリーのひとつです。アメリカではNBAとパートナーシップを締結していますし、今年からWNBAとも大きなパートナーシップを結び、キャメロン・ブリンク選手が新たにニューバランスファミリーに加わりました。
B.LEAGUEでパートナーシップ契約している選手はまだいませんが、個人的にニューバランスを愛用いただいている選手はいます」
――長崎の店舗の特徴は?
「2023年のボストンを皮切りに、コミュニケーションを重視した設計と、商品数を絞って厳選したものをディスプレイする新しいストアフォーマットを展開しており、現在日本では池袋、吉祥寺、広島に店舗があります。昨年オープンした吉祥寺は、住宅街と近い都市圏の中では地域密着型の新コンセプト店舗で、長崎は吉祥寺に似た形の店舗になります。
商品を多く並べて、接客は短めにして効率を高めるのがビジネス的なセオリーですが、私たちはコミュニケーションを大事にしています。コミュニティサークルというスペースを作り、お客様に時間をかけて向き合い、しっかりと納得してもらってブランドのファンになっていただく。コミュニティサークルでは、3D スキャンでの足の計測から始まり、お悩みのある方はお伺いして、ベストなシューズを納得して購入していただくことを目指していきます。
店舗によって異なりますが、接客は短くても15~20分、長いところは30~40分お話するところもあります。商品の特性を知り、自分にあった商品を見つけることができるため、リピーターとなるお客様も増えています。
ブランド全体としては若い層が主なターゲットですが、実際は幅広い年齢の方にご支持をいただいています。地域密着型の店舗であれば、お子さんから、お孫さんの靴を買いに来るもしくはご自身で使う高齢のお客様もいらっしゃいます。全ての年齢層の方にコミュニケーションをして、納得できる商品を買っていただきたいと考えています」
長崎スタジアムシティのストアでは長崎ヴェルカのレプリカユニフォームを扱う。シューズでは1980年代にリリースされた競技者向けバスケットボールシューズを復刻した「BB550」(1万7600円)も。
タウンユースのウェア「MET24」や、ニューバランス契約選手である大谷翔平選手初のシグネチャーコレクション「「Ohtani Signature Collection」も注目の商品。
人口動向調査での転出超過において、長崎市は2018~2023年でワースト3位以内に常に入っており、主な原因に10代後半~20代後半までの雇用不足による若者の市外への転出超過がある。
経済再生の一環として、100年に1度の変革期と称される長崎市では、長崎駅周辺や市街地中心部で大規模な開発が行われており、長崎スタジアムシティプロジェクトも、工事期間中から開業後までに、延べ約1.5万人の雇用創出を見込んでいる。
スポーツ庁および経済産業省が取り組む、まちづくりや地域活性化の核となるスタジアム・アリーナの実現を目指す「スタジアム・アリーナ改革」でも、同プロジェクトは2021年、2024年と2回選定されており、「他の事業者からも長崎の事例に関しては非常に参考にされていると感じた」(リージョナルクリエーション長崎 岩下氏)と、地域活性化の成功モデルとなるか注目されている。
取材・文/阿部純子