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リゾート地ニセコの移住のリアル~移住者のホンネと地方創生のヒント~

2025/06/10

世界中から観光客が訪れるウィンターリゾートとして名高い北海道ニセコ町。「リゾート地だから生活コストが高いのでは?」「移住したら英語が必須なの?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。しかし、実際に移住した人々に話を聞いてみると、想像とは違うリアルな暮らしが見えてきます。

今回は、ニセコ町の元地域おこし協力隊であり、現在は移住定住相談員を務める奥田啓太さんと、実際に地域おこし協力隊としてニセコ町に移住し、飲食店を開業した工藤夫妻にお話を伺いました。

また、移住を促進するだけではなく、地域、自治体としてどのように移住者を受け入れるかという視点を交えながら、ニセコ町が実践する移住支援や「北海道移住のすゝめ」の取り組みについてもご紹介します。

冬のニセコ町と羊蹄山

リゾート地「ニセコ」のイメージと現実~移住前と移住後のギャップ~

ニセコといえば、世界中から観光客が集まる国際的なリゾート地という印象が強いですが、実際に移住してみるとどのような暮らしが待っているのでしょうか?

「移住前は賑やかな町だと思っていた」→「グリーンシーズンは想像以上に落ち着いていた」

ニセコ町地域おこし協力隊 工藤さん夫妻。町内のコワーキングスペース内にオープンした冬季限定の炭火焼き鳥のお店「瓢」の店内。

工藤さん「移住する前は、外国人が多くて賑やかな町だと思っていました。でも、実際に暮らしてみると、オフシーズンと呼ばれるグリーンシーズンはかなり静かで、想像していたよりも田舎でした。冬場は観光客が増えますが、シーズン外は地元の人たちの生活が中心になるので、必ずしも英語を話せる必要はありません。」

「物価が高いのでは?」→「日常生活にかかる費用は抑えられる」

ニセコ町移住定住相談員 奥田 啓太氏

奥田さん「確かにスキー場周辺のレストランやホテルは観光客向けの価格設定ですが、日常生活にかかる食費や光熱費は、都市部と大きく変わりません。スーパーや道の駅で地元の野菜や乳製品を購入するなど、買い物や食事の選択次第で安く抑えることができます」

ニセコ町では、「カレーライス物価」を独自に算出し、生活費の目安を示しています。これによると、2025年1月時点でニセコ町のカレーライス物価は337円で、帝国バンクデータ社の試算による全国平均386円(2025年1月)よりも安いことが分かります。

「住む家は見つかるだろう」→「家賃の高騰と物件不足が課題」

工藤さん「移住前は『住む場所は探せば見つかる』と思っていましたが、実際は賃貸物件が少なく、家探しに苦労しました。家賃も上昇傾向にあります」

奥田さん「ニセコ町内でゲレンデ近くの物件は特に家賃が高いですが、少し離れたエリアを選べば比較的抑えることもできます。移住希望者には、近隣の倶知安町や蘭越町も視野に入れて住まいの検討することをおすすめしています」

移住を成功させるために大切なポイント

ニセコ町の農業の風景。ニセコ町の主要産業は農業と観光

(1) 「なぜ移住するのか?」目的を明確にする

奥田さん「移住相談を受ける中で、よくあるのが『今の生活を変えたい』という理由だけで移住を考えているケースです。でも、それだけでは移住後に『思っていた生活と違う』となりがちです。『スキー・スノーボードを生活の一部に取り入れたい』『平日でも温泉に入る生活がしたい』など、自分が移住先で何をしたいのかを整理することが大切ですね」

(2) 短期滞在で「リアルな生活」を体験する

スノーボードツアーの様子

ニセコ町では、「おためし協力隊」 や 「スノーボードツアー」 など、短期間の移住体験や地域おこし協力隊の業務など、ニセコ町での生活を体験できるプログラムを実施しています。

奥田さん「雪国の暮らしは、除雪や車の維持など、想像以上に大変なことも多いです。移住する前に一度短期間滞在してみて、自分に合った環境かどうか確かめることをおすすめしています」

(3) 移住後のフォローアップを大切にする

移住後、孤立しないためには地域コミュニティとのつながりが重要です。

奥田さん「ニセコ町では、移住者が地域に馴染めるよう、移住者同士の交流会や地元住民とのイベントを企画しています。相談しやすい環境を作ることで、移住後の不安を解消できるようにしています」

地方創生に活かす「広域連携型の移住支援」

ニセコ町の事例から、「移住者を単に増やすこと」だけではなく、地域としてどのように受け入れるか、また地域のまちづくりに共感してもらえるかという視点が重要であることが分かります。

「北海道移住のすゝめ」―道内自治体の連携で選択肢を増やす

一般社団法人「北海道移住のすゝめ」では、道内19自治体(2024年1月時点)の移住コーディネーターが連携する移住促進プロジェクトを展開しています。北海道では地域ごとに特色が異なるため、一つの町だけでなく、広域で移住支援を進める取り組みや連携を始めています。

奥田さん「移住後の生活は、一つの町だけで完結しません。例えば、ニセコ町で働きながら隣の倶知安町に住む、蘭越町で農業をしながらニセコ町の観光業に関わるなど、複数の地域をまたいだ生活が現実的です。そのため、自治体間で連携し、広域で移住者を受け入れる仕組みが求められます」

移住支援のポイント

・自治体間で情報共有し、地域全体で受け入れ態勢を整える

・「この町にはこれがあるが、隣町には別の魅力がある」という視点を持つ

・移住者だけでなく、地域住民の理解を促進する

「ヨソ者を迎える柔軟性」が地方創生のカギ

リゾート地=物価が高い、というイメージは一部正しいものの、生活の工夫次第でコストは抑えられます。ニセコ町では、移住相談員や地域おこし協力隊を活用し、移住希望者に寄り添った支援を行っています。また、単独の自治体だけで移住施策を進めるのではなく、周辺自治体と連携することで、より多くの移住希望者に適切な情報を届け、受け入れ体制を整えることが、これからの地方創生の鍵となるでしょう。

構成/小西悠貴(一般財団法人 地域活性化センター)