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日本でも増えているフェアトレードタウンとは? 先進地スウェーデン・マルメ市から「新しいまちづくりモデル」を学ぶ

2025/05/13
スウェーデンの大手コーヒー飲料メーカーの商品。ほとんどの商品でフェアトレードの豆を使用しています。

地域をもっと優しくする“フェアなまちづくり”という選択肢

私たちの住む街や町が、もっと優しく、誰もが暮らしやすい場所になったら…。

そんな願いを持つ人は少なくないでしょう。地域の活力を高め、次世代につながるまちづくりを実現するヒントが、実は「フェアトレード」という考え方にあります。そして、その理念を街ぐるみで実践する「フェアトレードタウン」という取り組みが、今、日本各地でも広がりを見せています。

フェアトレードとは? 買い物でつながる世界と持続可能な暮らし

フェアトレードとは、「公正な貿易」を意味する言葉。途上国の生産者が適正な対価を受け取れる仕組みを通じて、彼らの生活改善と自立を支援する取り組みです。コーヒーやチョコレート、衣類などの日用品を「誰かの犠牲の上に成り立つ安さ」ではなく、「みんなが笑顔になれる適正な価格」で取引することが、生産者の生活向上、環境保全、児童労働の防止などにつながります。

私たち消費者にとっては、日々の買い物を通じて世界の課題解決に参加できる、身近な国際協力の形とも言えるでしょう。「買い物」という小さな行動が、地球の裏側の誰かの暮らしを支え、環境を守ることにつながる——そんな選択肢が、今、私たちの街にも広がっています。

スウェーデンのスーパーに販売されているフェアトレード商品。スウェーデンでは認証ラベルが広く普及しており、コンビニでもフェアトレードの商品を手軽に購入することができます。

フェアトレードタウンとは? 世界で広がる地域共創型まちづくりモデル

少子高齢化、人口流出、経済の低迷——。多くの地域が抱えるこうした課題に対して、今注目を集めているのが「フェアトレードタウン」という新しいまちづくりの形です。

2000年にイギリスの小さな町ガースタングで始まったこの取り組みは、一つの自治体がフェアトレードの理念を地域全体で推進していくことを宣言し、実践するもの。市民・事業者・行政が垣根を越えて連携し、「人にも地球にもやさしい選択」を日常の中に織り込んでいくことで、まち全体に新しい価値観が根付いていきます。

単なる認定制度ではなく、都市のあり方そのものを見直し、転換していくこのアプローチは、地域の資源を再発見し、市民参加型のまちづくりを育む”きっかけ”として機能しています。また、地域内だけでなく世界とつながる視点を持つことで、より開かれた持続可能なコミュニティづくりにもつながるのです。

日本で増えるフェアトレードタウン認定都市

日本では2011年に熊本市が初めてフェアトレードタウンに認定されて以来、名古屋市や逗子市、浜松市、札幌市などが続き、現在では7都市がフェアトレードタウンとして認定されています。また、認定に向けて準備を進める自治体も各地で増えています。

人口規模や地域特性が異なるそれぞれの都市が、自分たちらしい「フェアなまちづくり」を模索し、実践している点が特徴的です。大都市だけでなく、中小規模の自治体でも、地域の特色を活かした取り組みが広がっています。

熊本市に学ぶ:災害復興にも生きたフェアトレードの理念

2011年、熊本市は日本で初めてフェアトレードタウンに認定されました。きっかけは、地元の大学生や市民団体の熱心な活動と、それに共感した行政の理解・協力でした。

認定後は、フェアトレード商品を扱うお店やカフェが徐々に増え、学校での学習活動も活発に。地元農産物とのコラボによる”熊本らしい”商品開発も進み、フェアトレードをテーマにした観光・教育・イベントも充実してきました。

特筆すべきは、2016年の熊本地震の際、フェアトレードの理念が復興の過程にも活かされたこと。「支援される」だけでなく「共に支え合う」という関係性の構築につながり、危機を乗り越える地域の力となりました。

逗子市の事例:小さな自治体で実現するエシカルなまちづくり

神奈川県逗子市は人口約5万人の小さな自治体ですが、2016年に日本で4番目のフェアトレードタウンに認定されました。ここではNPOと市民が主体となり、商店街・学校・行政とゆるやかにつながりながら活動を展開。

空き店舗がエシカルカフェやフェアトレードショップとして生まれ変わり、若者や子育て世代が地域に目を向けるきっかけにもなっています。規模は小さくとも、「フェア」な価値観を軸にしたコミュニティが形成され、地域の魅力向上と社会課題解決を両立させる好例となっているのです。

フェアトレードタウンを目指すための6つのステップ【ロードマップ付き】

「わが街でもフェアトレードタウンを目指したい」。そんな思いを持ったとき、どんな一歩を踏み出せばいいのでしょうか。以下のようなステップが一つの道筋になるかもしれません。

1. 関心を持つ市民同士で小さなグループを作り、理念を共有する

2. フェアトレード商品を扱うお店やカフェを地域に少しずつ増やしていく

3. 学校や公民館などで、エシカルな選択について学ぶ機会を作る

4. 行政との対話を始め、協働の可能性を探る

5. SNSやイベントを通じて、より多くの人に知ってもらう活動を続ける

6. 活動の広がりを記録し、認定に向けた準備を進める

大切なのは、形式的な認定だけを目指すのではなく、そのプロセスを通じて地域の多様な人々がつながり、新しい価値を一緒に育てていくこと。小さな一歩の積み重ねが、やがて街を変えていく力になります。

スウェーデン・マルメ市視察ツアーで学ぶ、サステナブルな都市づくりの実例

地域変革の具体的なイメージを得るために、今年の夏、フェアトレードの先進都市であり、サステナブルシティとしても世界に知られるスウェーデン・マルメ市への視察ツアーが開催されます。

かつて造船業の衰退で深刻な経済危機に直面したマルメ市は、サステナビリティを軸とした都市再生に成功。北欧の中でもいち早くフェアトレードタウンの認定を受け、環境と人に配慮したまちづくりのモデルとして注目されています。

今回の視察先、スウェーデンで初めてフェアトレードタウンとなったマルメ市。街の中をEVボートで観光することができます。

現地で体感できる主な視察内容と取り組み

– 行政・市民・教育機関が一体となって実現するフェアトレードの取り組み

– 学校現場での気候正義・エシカル教育の実践

– スマートシティ開発が進むヒッリエ地区のまちづくり

– カフェやショップで根づく「選ぶ=投票」の文化

– 地元住民・市職員・活動家との和やかな意見交換の場

プログラムの最終日に行うワークショップの様子。ツアーで感じたことや印象的だったことをアウトプットし、帰国後のアクションにつながることを考えます。

視察で得られる5つのヒント【政策・ブランディング・協働】

– エシカルな都市像を具体的に思い描くためのヒント

– 市民参加と行政の協働による柔軟なまちづくりの手法

– 観光・教育・福祉とも連動する多層的な地域活性化の可能性

– 地域ブランディングにつながるストーリー性ある政策のアイデア

– SDGsを「お題目」ではなく実践につなげる具体的な方法

フェアトレードタウンは、まちの価値観を変えるプロセス

フェアトレードタウンは、単なる制度ではなく、まちそのものの”価値観”を更新していくプロセス。人と人、まちと世界がやさしくつながる未来へ——その第一歩を、マルメで体感してみませんか?

現地で出会う「フェア」なまちづくりの実践は、きっとそれぞれの地域に新たな風を吹き込むことでしょう。小さな変化が連鎖して、やがて大きなうねりとなる。そんな希望を、この視察ツアーで垣間見ることができるかもしれません。

主催者からのメッセージ

「フェアトレードは、環境・人権・平和・持続可能性など、社会のあらゆるテーマとつながっています。北欧の人たちはそれを”あたりまえのこと”として、日々の暮らしや仕事に自然に取り入れているんです。

このツアーを通じて、”こんな社会のつくり方があるんだ!”というヒントを、ぜひ肌で感じてほしいと思っています。日本の各地域がそれぞれの特色を活かしながら、より公正で持続可能な社会を築いていくための種まきになれば、こんなに嬉しいことはありません。」

フェアトレード案内人・フェアトレード ラブランド代表 明石祥子さん

ツアー情報・お申し込み

▶︎ スウェーデン視察ツアー詳細ページ(主催:One Planet Café)

構成/神﨑典子 写真提供/ワンプラネット・カフェ