新宿区立四谷第六小学校では、カリキュラムのひとつとして「私たちの町自慢」という学習を行っています。3年生の「総合的な学習の時間」に行うもので、児童たちが地域を探索してテーマを決めるため、毎年、地域のさまざまな事柄にスポットがあてられ学習しています。今年度は、小学校のすぐ近くにあるオーガニックコットンブランド「プリスティン」を手掛ける株式会社アバンティとともに、オーガニックコットンについて学び、実際に校庭でコットンを育てることになりました。どのような取り組みなのかお話をうかがうとともに、児童たちが育てているコットン畑も見学してきました。
新宿区立四谷第六小学校では、校庭の一部にアバンティのスタッフとともにオーガニックコットン畑を作り、3年生の児童たちがお世話をしています。これは、「総合的な学習の時間」という授業の一環です。『私たちの町自慢』というテーマで、児童たちが小学校の周辺を調べ、見つけてきたことを出し合って、何について取り組むかを決めるというもの。今年度、児童たちが取り組むことにしたことのひとつが、小学校の目と鼻の先にあるオーガニックコットンブランド「プリスティン」について調べることになりました。そこで、小学校側から、プリスティンを手掛けるアバンティに協力の依頼を行ったことがきっかけで、小学校にコットン畑を作ることにまで発展しました。小学校から授業の依頼を受けたとき、アバンティとしては、どのように思ったのかを伺うと、
「アバンティでは、これまでも小学校や中学、高校などで授業を行っています。こんな近くにある小学校なので、オーガニックコットンについて知ってもらう機会を持ちたいと以前から考えていました。」(アバンティ代表取締役 奥森秀子さん)
アバンティとしても、ぜひ知ってもらいたいと考えていたところへの依頼ということもあり、すぐに授業の予定が組まれました。学校というと、新年度の予定が、前年度中に決まるものと思い込んでいた筆者にとって驚きのスピード感です。しかも、オーガニックコットンについて、まず知ってもらうということで、授業を行うところまではわかりますが、校庭に畑まで作ってしまうというのは、なかなかハードルが高そう。そこには、先生方の児童への思いや、PTAの協力もあり実現しています。
最初に、衣食住のひとつである「衣」のなかでも、オーガニックコットンはどのようなもので、どうやって私たちが身に着ける衣類になるのかを学びます。まず、コットンの種を見せ、そのコットンが育ち、花が咲き、コットンボールができます。そのコットンボールを見せながら、
「このコットンからTシャツとセーター、どちらが作られるでしょうか。」と、2択のクイズを出すと、多くの児童が、セーターと答えたのだとか。ふわふわのコットンからセーターをイメージしたようです。そこで、コットンから糸を紡ぎ、生地になる工程を説明し、出来上がったTシャツを見た児童からは、
「あれ、これぼくのTシャツと違う。なにか黒い点々が入ってる。」と、すぐに違いを発見したといいます。子どもは、このコットンのネップを汚れとは考えず、違うものであると純粋にとらえるようです。触ってみて、手触りが気持ちいいことを感じ、薬剤などを使わずに育てることで、肌にやさしく、地球にもやさしいことを学びます。
「子どもたちは、地球が悲鳴を上げてきていると感じているようです。意識は、以前より高いですね。」(奥森さん)
さまざまな学校で出張授業を行う中で、子どもたちの環境への意識の変化を感じているようです。授業を行ったあと、「オーガニックコットンを育ててみたいと思う人」と、声をかけると、「やりたい!」と、元気に返事があり、校庭の一部を畑にすることになりました。
校庭の一部とはいえ、新宿という都会のど真ん中にある小学校であることから、畑のスペースを確保するのは至難の業です。しかも、校庭は天然芝。畑にする場所を決めるのも一苦労だったとか。
「ちょうど学校の100周年ということもあり、なにか形に残したいと考えていました。そこで、今回、子どもたちが活動しやすいかどうかということも考えて場所を選び、芝生をはがして、畑にしました。実は、PTAの有志でつくった土部というのがありまして、協力していただいています。」(新宿区立四谷第六小学校3年生担任 増田郁夫先生)
土部というもの自体、初めて耳にしましたが、朝起きてから学校に来るまで、土を踏んでいない子どもたちがいる都会では、土に意識的に触れる機会は貴重ですね。
6月初旬に、3年生2クラスの児童70人で、アバンティのみなさんのアドバイスを受けながら、種まきが行われました。たくさんの種を寄贈してもらったこともあり、3分の1くらいは、それぞれ自宅に持ち帰り、家でも育てている児童もいるそう。学校では、担当制で、毎日お世話を行っています。とても順調そうですが、実はハプニングもありました。ある日、種がばらばらになって土の表面に出てきていて、何が起こったのだろうと思ったら、なんと自動芝刈り機が、畑エリアに侵入したことが判明。侵入できないよう周囲に杭を打っていましたが、近くにある百葉箱の足元のほうから侵入していたそうで、その部分にも土部のみなさんが杭を増やしてくれたとのこと。その部分には、改めて種まきを行っています。児童はもちろんですが、PTAやアバンティのみなさんの協力体制がすばらしいですね。
コットンがしっかり成長するためには、間引きも必要です。間引きをする理由も説明し、どれくらいの間隔で行うかなど、アバンティのコットン担当である川邉昭久さんのアドバイスのもと進めますが、子どもたちにとっては葛藤もあったようです。
「自分で種をまいたコットンは、自分のコットンと思っているんですよ。だから自分の植えたところは間引きしたくないと思っていて、他の場所に植え替えようとしている子もいました。」(増田先生)
自分が種をまいた場所を覚えていて、思い入れがあるだけに、気持ちはよくわかりますね。コットンを育てることが決まってからは、どのように育てるのかを調べてきたり、雑草もこまめに抜いたりと、自分から積極的に参加している子もいるそうです。収穫するときは、みんなどのような表情を見せてくれるのか、今から楽しみになります。
コットンボールを収穫したら、それらを使って何かを作って、記念になればいいなとも考えているとのこと。自分たちが育てたコットンが形として残るのはうれしいですね。今後も、コットンの栽培は継続して、学校行事のひとつになればいいと思う一方、授業であることから、懸念材料もあるといいます。
「今年の3年生は、自分たちが見つけてきたものという気持ちがありますが、今後は、何らかのモチベーションが必要になると思います。」(増田先生)
確かに、自分たちが見つけてきたという思いは強いかもしれませんね。すると、
「堆肥から作ってみたいですね。学校の給食の残りなどを利用して、本当の循環ができればいいと思います。」(奥森さん)
学校内で本当の循環を体験できるとはすばらしいですし、改めて自分自身が地球の循環の中にいるということをより実感できそうです。
今回、オーガニックコットンのお世話をすることで、自然に目を向ける児童も出てきています。ある日、キャベツの葉の裏にモンシロチョウの卵を見つけ、育てていたのだそう。羽がきれいに広がらなかったことから、毎日、一生懸命お世話していて、今までそんなことをするような子ではなかったのに、コットンを育てる体験から、自然に目を向け、他にもなにかやってみようと興味がわいたようです。
「教科書で学んだだけでは、そうはならないですよね。人に対する気持ちも変わるでしょうし、そのきっかけを作ることができると感じています。」(増田先生)
教科書で知っていることと、体験したことでは、頭や心に残る思いや知識が大きく変わるということですね。また、コットンを育てるという「総合的な学習の時間」という授業だけでなく、将来的には、生地を織ることができたり、コットンペーパーを作って卒業証書にしたり、国語の授業とジョイントして、コットンペーパーにお手紙を書いてみようなどの課題にしたりと、未来への夢も広がります。
「コットンが大きくなってきていますね。」と、アバンティのスタッフが学校を訪れると、守衛さんが声をかけてくれることもあり、新たなコミュニケーションも生まれているようです。100周年という記念イヤーにスタートしたオーガニックコットン畑は、体験学習の場であるとともに、新たな地域のコミュニティの役割も果たしてくれているようです。
新宿区立四谷第六小学校
https://www.shinjuku.ed.jp/es-yotsuya6/index.html
アバンティ
https://avantijapan.co.jp/