公務組織の人員不足は、少子高齢化の社会において、民間企業と同様に多くの自治体で聞かれる声です。一方で、行政が担う業務は多様化し、新たな課題や対応が次々と生まれています。業務は増えていくが、人員は増えない(増やせない)と構造が常態化しています。
こうした環境下で求められているのが、「自律型公務員」という新しい人材像です。
変化の激しい時代に、行政が地域の期待に応え、地域を活性化させ続けるには何が必要なのか。(一社)官民共創未来コンソーシアム上席理事の箕浦龍一氏に伺いました。
箕浦氏は、元総務省職員で、2021年に退官し、フリーランスとして自治体や企業へのコンサルティングをされています。現在は、立教大学法学部特任教授、(一社)官民共創未来コンソーシアム上席理事、(一財)地域活性化センターシニアフェロー、(一社)日本ワーケーション協会特別顧問に就任されています。「働き方」のトランスフォーメション、ワーケーションの全国展開や地方公共団体等の課題解決支援を中心に活動されています。

箕浦さんの話にはよく「自律型公務員」という言葉が出てきますが、どういう人材を指すのでしょうか。
箕浦氏:「自律型公務員」は、自身が自分の頭で自律的に考え、地域のために高い価値を創造し提供できる人材のことです。
なぜ、いま自律型公務員が必要とされているのでしょうか。
箕浦氏:社会情勢が目まぐるしく変わっていく中で、公務組織を取り巻く環境や求められるものも変わり、また変わり続けている、「変化の時代」であるということが大きな要因です。行政が、社会が変化し続ける中で、「前例踏襲」や「無謬性」に留まること、つまり変化に対応できないことが最大のリスクであり、行政が社会から乖離してしまう一つの原因になってしまいます。だからこそ、組織の外への視点を持ちながら、自ら問い、動ける自律型公務員が欠かせない存在になると考えています。
自律型公務員を語るうえで、箕浦さんが必ず触れるのが「働く」という概念です。
箕浦氏:今の日本の多くの組織では、「働く」=「我慢」と誤解されています。我慢の対価として給料がもらえるという認識が根強いです。これは、「働き甲斐(やり甲斐)」を感じられない組織とも言え、公務組織はその代表格に上げられることもあります。本来、「働く」とは「価値を創造する」ことであり、労働が提供する価値に見合った対価を得ることです。誰かのために行動し、評価・感謝されることは、本質的な幸せや喜びに直結する。つまり「働くこと」は「生きること」です。公務の現場で働きがいや幸福感が生まれるためには、価値創造の時間を確保することが不可欠なんです。
しかし現実には、自治体の現場は非常に多忙で「価値創造に割ける時間がない」という声をよく聞きます。
箕浦氏:まさにそこが問題で、今の公務組織は、多様化する業務を限られた人員で処理せざるを得ない状況にあります。限られた労働時間の多くが事務作業や雑務に追われることで、「やり甲斐がない」と感じる職員が増え、新規採用や中途退職にも影響しています。
雑務の背景にあるのは、「変化をしない・変化を恐れる文化」です。例えば、昨年と方法を変えて効率化したのに、上司から「昨年どおりに」と差し戻される、チャットツールがあるのに内線電話が減らない、会議資料が必ず紙で配布される、押印、ファクスなど、こうした「慣習だから」「昔からそうしてきたから」という理由で続いている雑務が、現場の時間を奪い続けています 。
では、雑務退治はどのようなところから始めればよいのでしょうか?
箕浦氏:雑務には、組織全体で変えないといけないものと、個人や小さな単位で今日から始められるものがあります。働き方改革の第一歩を踏み出すために必要なのは後者です 。例えば、印刷・ファイリングした資料を“とりあえず”で保管していないですか。本当に後から見返す資料なのか、データ管理にできないのか、「印刷しない」だけでなく「保管しない」ペーパーレスにできないか。紙資料の整理だけでも、積み重ねれば大きな時間を生みます。
個人で始めることのできる保管しないペーパーレスのほかに、管理職から始められることはあるでしょうか?
箕浦氏:上司が「対面で」を求めすぎていないかを見直してみると良いと思います。日程調整や簡単な連絡まで対面にこだわると、部下は上司が席に戻るまで待つことになり、大きなロスが生まれます。メールやチャットで済む案件は、極力、そういったツールを活用する。“何が対面で必要で、何がオンラインで良いのか”を整理するだけで、組織全体の時間が変わります 。

業務の効率化は、制度や規則、予算など、組織として越えるべき壁が多く、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、箕浦さんのお話にあった「雑務退治」は、一人ひとり、あるいは係など小さな単位からでも確実に始められる改革です 。
小さな改善の積み重ねがやがて大きな変化を生み、組織全体の機運を育てていきます。すぐに結果が見えにくい取り組みであっても、価値創造の時間を取り戻し、働き甲斐を生み出す第一歩になることは間違いありません。変化の激しい時代だからこそ、自ら考え、動ける「自律型公務員」の存在が地域を支える力になります。「地域づくりは人づくりから」という言葉が示すように、人材の育成こそが、これからの地域の未来を切り開く鍵になるのではないでしょうか 。
取材・文/濱田 祐輔(一般財団法人 地域活性化センター)