
「コスパ・タイパ」が重視される現代において、地方創生の現場に求められるのは「じっくり考える力」かもしれない。
東京に久々に雪が降った3月10日。小学館の地方創生メディア『ロコ・ラボ』による、一般財団法人地域活性化センターのインターンに向けたセミナーとランチミーティングが行われた。東京・日本橋に構える一般財団法人地域活性化センターは、地域活性化や地方創生を担う人材を育成し相互の情報交換やネットワーク構築の場を提供する場。全国の地方公共団体の担当者が集結している。
ロコ・ラボと地域活性化センターは、2024年に連携協定を締結。全国各地の地方公共団体で活躍する20〜30代の地域活性化センタースタッフが執筆するWEB連載をロコ・ラボに掲載したり、地域活性化センターのメンバーをロコ・ラボにインターン派遣したりと、人材交流しながらさまざまな連携取り組みを行っている。

今回のイベントも連携の一環。地域活性化センターのインターン生向けに、ロコ・ラボをはじめ『BE-PAL』『サライ』『HugKum』『CanCam』などの小学館メディアの編集長による講義が行われた他、地方創生に取り組む外部企業からの講演も行われた。この記事では、出版取次大手・株式会社トーハンが語った地域での取り組みや、インターン生に向けて行ったワークショップなどの様子を紹介する。
トーハンは出版社から本や雑誌等の出版物を仕入れ、全国の書店やコンビニに届ける物流と金融を担う総合商社。2022年からは社内プロジェクト「ブックブーストラボ(Book Boost Lab.)」を立ち上げ、本のある空間づくりや移動販売、イベント企画など、本と人の新しい接点づくりに注力している。

今回登壇したトーハンの書店事業本部・長井さんも、「ブックブーストラボ(Book Boost Lab.)」のメンバー。ラボでの取り組みについて、「一つが『プロデュース事業』。企業や施設の中に『ライブラリー』という本のある空間を作るという事業が柱になっています。もう一つは『ホンジュール(Honjour)事業』。本がない地域に移動販売車で本を届けて、販売やイベントをさせていただいております」と説明した。

長井さんによると、現在、全国の自治体の約28%に書店が一軒もないという。「書店が一軒のみ」という自治体を含めるとその割合は約半数にのぼり、「多様な価値観や知識に触れる場所が減っている」と危機感を示す。長井さんは、書店には「幅広い客層が訪れる」「コミュニティを生み出す場になる」といった、まだ活用しきれていないポテンシャルがあると強調した。

その他にもトーハンでは、本を活用して施設や町中を回遊する「リアル謎解きゲーム」を活用した集客イベントの開催や、月5万円から書店を開業できる書店開業支援サービスHONYAL(ホンヤル)も展開。集客イベントでは新潟県妙高市でゲームを通じて図書館の歴史を学ぶ企画が盛況となり、書店開業支援サービスでは、約1年間で39店の書店が新規にオープンした。現在も開業準備中の書店は多数あり、岐阜県海津市では地元高校と連携した「高校生書店」の開業を目指し、トーハンが支援を行っている。

山梨県中央市の事例では、プロサッカークラブ「ヴァンフォーレ甲府」の選手と連携した「空想書店コンテスト」を実施。本を読まない層に「自分の好きなものを起点に、理想の本屋を考える」というアプローチを行い、70%以上の生徒が「本を読みたい」と回答する劇的な意識変化をもたらした。

また小学館『BE-PAL』とコラボし、自治体のキャンプ場を使った『CAMP with BOOKS』などのPRやイベントも開催している。
講演後には、地域活性センターのインターン生が自らの自治体の課題を解決する企画を考えるワークショップが行われた。
東京都中野区の浅村さんは外国人住民が約8%を占める特性を活かし、移動販売車で月替わりの「世界の国フェア」を開催したいと提案。現地の料理本やベストセラーを扱い、多文化共生を促進するコミュニティづくりを考案した。

また島根県出雲市の伊藤さんは生成AIを活用して企画。観光課題である「滞在時間の延長」を解決するため、出雲地域ならではの書店でしか買えない「漫画・紀行・謎解き」の3パターンの“出雲神話読本”を販売し、書店員と連携して街歩きを促すストーリーを構築した。

これに対し、トーハンからは「地元飲食店とのコラボ」や「御書印(ごしょいん)の活用」といった、さらに企画を具体化させるプロの視点でのアドバイスを送った。
最後に長井さんは、トーハンのコーポレートメッセージ「THINK SLOW.」を紹介。

「タイパ・コスパが重視される時代だからこそ、本屋や本のある空間で足を止め、深く見つめ、考えることが地域課題の解決にもつながるはず。全国の自治体と一緒に、新しい地域の姿を実現していきたい」と締めくくった。
全国に広がる書店のネットワークは、単なる小売の場を超え、今や地域の課題を解決する「プラットフォーム」へと進化しようとしている。自治体と企業の新しい連携の形が、ここから始まりそうだ。
(取材/コティマム)