
つくることで伝承し、変化しながら人の生活に寄り添ってきた、地域に根付く「小文字の伝統」。前編では小倉ヒラクさんの新著を手がかりに、その成り立ちと現在地を紐解いてきた。
では、そうした伝統はこれから地域にどのように生かされていくのか。
つくり続ける人にも、新しくつくり始めた人にも出会ってきた小倉さん。だからこそ地方創生の視点から見えてきた、伝統とこれからの関係性を探る。
―前編では「大文字の伝統」と「小文字の伝統」があるなかで、特に「小文字の伝統」について伺ってきました。地方創生の文脈のなかで、発酵やものづくりなどの「小文字の伝統」はどのように生かせると思いますか?
小倉 一番大きいところで言うと、観光資産になります。「小文字の伝統」はそれぞれの地域性や土地の文脈に大きく寄るものです。だから「ここにしかないもの」ができやすい。それに「小文字の伝統」は、体験型が多いんです。つくることによって伝えられてきたものなので、それを体験してもらうだけでツーリズムとして成立します。

―つくったり、食べたり。それだけでも、地域の魅力を感じてもらえそうですね。
小倉 僕がやっている「発酵ツーリズム」というプロジェクトがまさにそれ。その土地にしかない「小文字の伝統」を、とことん活かしたツーリズムになっています。海外に目を向けると、スペインやフランスは観光による経済寄与がとても大きい。日本もこれからそうなっていくと思います。
―ただ地域に暮らす人にとって、「小文字の伝統」は当たり前になりすぎて、価値に気づきにくいこともありそうです。小倉さんが注目している活用事例などありますか?
小倉 一つは、本でも紹介している岐阜県の長良川流域のプロジェクトです。鵜飼で有名な長良川ですが、和紙や美濃焼き、鮎の熟れ寿司など、「小文字の伝統」がたくさんあります。僕の兄貴分でもあるNPO法人オルガンの蒲勇介さんが、鵜飼をシンボルにそれらを繋いで観光プログラム化しています。今では海外からも観光客が来ている、大きな成功例だと思います。

―一つ一つは小さくても繋ぐことで、地域の魅力をより大きく発信している例ですね。
小倉 繋ぐといえば、福井県の鯖江市では「RENEW」というオープンファクトリーイベントにも注目しています。眼鏡や繊維、越前漆器や越前焼きなどの工房を一斉開放し、見学やワークショップを体験できるというもの。普段はBtoBである産地をそのまま観光資源に変えるというやり方は、すごく面白い。3日間の開催で5万人近い人が訪れるそうです。地元の人たちにとって当たり前のものが、外から来た人に面白がってもらえる。それって地元の人にとっても嬉しいことだし、価値の再発見にもつながっているようです。
―長良川も鯖江も観光のために新しくつくるのではなく、今ある「小さな伝統」をそのままの姿で生かしているところが印象的です。
小倉 大事なのは無理やりマーケティング的な手法で歪めないことです。テーマパーク化してしまうと、普通の地元の人に会う機会も減りますし、地域のファンにもなってもらいにくい。「あのおばちゃん元気かな」という関係性こそが、また行きたいという動機になります。「発酵ツーリズム」はリピート率がとても高いのですが、それも発酵の現場をそのまま見せて、産地の人と近い関係性を築けるプログラムだから。権威付けせずに、小さいまま文化資源にしていく。それが大切なポイントですね。
―一方で地域の伝統を生かした新しい試みをする人たちも増えている印象があります。
小倉 そうですね。地方創生というと新しいものや場所をつくろうとなりがちですが、実はそんなにコントロールする必要はありません。というよりも、コントロールしたからといって変わるものではないんです。

新しいものを生み出すのは、個人のクリエイティビティ。結局は人なんです。だから僕や長良川流域で活動する蒲さんは、人が出会う場をつくることに注力しています。別の分野で活動をしている面白い人たちが出会ったときに、勝手に新しいものが生まれてくる。そうやって「小さい伝統」が続いていくのが、自然なあり方だと思います。
―最後にこれからの時代に向けて、伝統との向き合い方のヒントをお願いします。
小倉 正直にいうと、日本は今後「小文字的なもの」を価値としていく以外に、生活のクオリティを維持する道はあまり残されていないと感じています。今後大きな経済的な成長も見込めず、資源も枯渇してく中で、もしつくり続けてきたものまでも失ってしまったら、僕たちは何者でもなくなってしまう。

だったら、これまで育ててきた「小文字の伝統」を武器に、大きくはないけど豊かな国を目指していく方向へ。今までは「伝統を守る」というパラダイムでいたと思いますが、これからは伝統に守られて、つくる人と使う人がとなり合って生きる時代にシフトしていく。その時に向けて、それぞれの「僕たちは伝統とどう生きるか」を考えるきっかけになればと思います。
写真/黒石あみ
取材・文/福田真木子