
不景気や戦争、物価高など、何かと暗いニュースが飛び交う現在。日本や地域が活力を持ち成長していく術はないのだろうか。
東京に久々に雪が降った3月10日。小学館の地方創生メディア『ロコ・ラボ』による、一般財団法人地域活性化センターのインターンに向けたセミナーとランチミーティングが行われた。東京・日本橋に構える一般財団法人地域活性化センターは、地域活性化や地方創生を担う人材を育成し相互の情報交換やネットワーク構築の場を提供する場。全国の地方公共団体の担当者が集結している。
ロコ・ラボと地域活性化センターは、2024年に連携協定を締結。全国各地の地方公共団体で活躍する20〜30代の地域活性化センタースタッフが執筆するWEB連載をロコ・ラボに掲載したり、地域活性化センターのメンバーをロコ・ラボにインターン派遣したりと、人材交流しながらさまざまな連携取り組みを行っている。

今回のイベントも連携の一環。地域活性化センターのインターン生向けに、ロコ・ラボをはじめ『BE-PAL』『サライ』『HugKum』『CanCam』などの小学館メディアの編集長による講義が行われた他、地方創生に取り組む外部企業からの講演も行われた。この記事では、内閣府クールジャパン・プロデューサー・渡邉賢一氏による「地域×クールジャパン」をテーマにしたトークショーの様子を紹介する。渡邉氏の講義には、日本や地域創生の未来の発展につながる鍵が詰まっていた。

渡邉氏は、朝日新聞社、内閣官房などを経て、内閣府クールジャパン・プロデューサーを務めている。栃木県・栃木市、那須町などのフェローも務め、地域資源のブランド化と海外発信の第一人者として活躍している。今回のインターン生向けセミナーにでは「地域×クールジャパン」をテーマに、最新のテクノロジーやIP(知的財産)をいかに地方創生に結びつけるかといった、刺激的な講義が行われた。
講義の冒頭、渡邉氏は驚くべき数字を提示した。現在、政府が掲げるクールジャパン戦略の目標(KGI)は、外需で50兆円。これは現在のサービス貿易収支において、半導体産業(約8兆円)や鉄鋼業(約14兆円)を遥かに凌ぐ規模だ。
「文化産業は10年以内に、日本最大の産業である自動車産業(約64兆円)を抜く可能性がある。おそらく、100兆円も達するということで注目されています。自治体の皆さんは、企業立地や産業創生の中に、ぜひ文化産業を組み込んでほしい」と呼びかけた。
なかでも利益率が50%を超えるのが「IP(知的財産)」の分野。渡邉氏は、日本が「全ての世代に対するIPを保有している数少ない国」だと語る。
「0歳からシニアまで、全ての世代に対するアニメや雑誌があります。例えば小学館でいうと赤ちゃんや幼児の頃に見る『めばえ』『幼稚園』、それが小学生になると『コロコロコミック』になる。『CanCam』世代が『Oggi』になる。このような、バラエティーのあるコンテンツラインナップをデザインできている国は非常に少ない。これは日本の強みとして考えいただきたい」

実際に他国では、IPを国の産業にするための動きが始まっているという。
「例えばサウジアラビアでは、中学校でマンガを描く授業が義務教育になりました。またゲーム省を創設し、ゲームを石油に次ぐ基幹産業するため動き始めています」
渡邉氏はアニメやマンガだけでなく、地域の祭り、伝統工芸、郷土料理もすべてIPであると定義する。ここで重要になるのが「ナラティビズム(物語主義)」という考え方だ。

「情報を中立に伝える『ジャーナリズム』ではなく、文脈(コンテクスト)をデザインして人々の感情に訴えかける『ナラティブ』が必要です。『お天道様が見ている』といった日本独自の精神性やインビジブル(目に見えない)な価値観がいま、世界中の『SBNR(※Spiritual But Not Religious/既存の宗教の教義には縛られず、個人の内面的な体験や心の安らぎを重視する層)』に強く刺さっている。地域の魅力を伝えるには、この“物語の力”で意味をデザインしなければならない」
具体策として渡邉氏が提示したのが、最新テクノロジーを活用した「空の産業革命」だ。ドローンの機体一機を一画素と見立て、夜空を巨大なディスプレイに変える「ドローンショー」は、単なる演出ではなく「空域権」という新たな経済圏を生み出すという。

「これまで活用されていなかった『空』をメディア化し、自治体と企業が連携して桟敷席やスポンサー枠を売る。例えば、小学館のアウトドア誌『BE-PAL』と組んで、キャンプ場で星空とドローンショーを楽しむツアーを作るなど、夜の滞在型観光を創出できる。これは『言ったもん勝ち』のブルーオーシャンです」
また、栃木県をフィールドにした『コロコロコミック』との連動企画「栃木クエスト」や、ガンダムと地域特産品を掛け合わせた「ファンダム経済圏」の構築など、巨大メディアやIPホルダーと自治体がタッグを組む具体案を次々と披露した。
さまざまな画期的な取り組みが紹介された渡邉氏の講義。質疑応答では、地域活性化センターのインターン生から現実的な悩みが寄せられた。

例えば、「先進的な取り組みは魅力的。でも自治体にはマンパワーも予算もなく、組織の壁も厚い。どうすればいいでしょうか」という切実な悩みも。渡邉氏は、「やる気には温度差があるし、『担当ガチャ』と呼ばれるように、『誰が担当になるか』で決まってしまう現実がある」と現状に理解を示す。
「重要なのは、若手の知識を邪魔しない首長の意識。そして、もし組織内で下から上げるのが難しければ、我々のような外部の人間を『壁打ち相手』として使ってほしい。首長と直接対話する機会を作り、横から刺激を与えることで、組織の根っこを動かす。我々はいつでもそのお手伝いに行きます」

また、「こうした最先端の情報をどこから仕入れているのか?」という質問も。渡邉氏は 自身がディレクターを務める内閣府主催の『CJPF(クールジャパン官民連携プラットフォーム)』を紹介。同プラットフォームでは各界の専門家や創業者が月1回集まり、政府も気づいていないような『チャンス』を共有しているという。入会金や維持費はゼロだ。渡邉氏は「こうした越境コミュニティに身を置くことが第一歩になる」とアドバイスした。
「情報の過多な時代において、人は共感と意味に投資する」と語る渡邉氏。最後に、地域の祭りや資源をIPとして整理し、物語を添えて世界へ発信する「IPセンター」としての役割を自治体が担うことこそが、これからの地方創生の王道であると締めくくった。