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“対話”が地域を再生する─ 一宮『対話と五感と庭』が示す地方創生の新しいかたち

2026/08/07
オープニングイベント二日目。映画「食べることは、生きること」上映後、Brown’s Field中島デコさんと環境活動家、無肥料栽培家として活動している岡本よりたかさんさんと会場に集まった参加者のみなさんとの一コマ。

愛知県一宮市といえば、「モーニング文化発祥の地」として知られるまちだ。

1950年代、繊維産業で栄えたこの地域では、多くの喫茶店が商談の場として利用され、コーヒーにトーストやゆで卵を添える「モーニングサービス」が自然と広まった。そこには、単なる飲食の場を超え、人と人が語り合い、信頼関係を育む文化が根付き、地域の暮らしや商いを支えてきた。

しかし、時代の流れとともに繊維産業は縮小。かつて活気にあふれていた工場の多くはその役割を終え、住宅街が広がる一方で、まちからは人々が自然に集い、交流する場も少しずつ失われていった。

そんな一宮の住宅街に残る築95年の古民家と、約1,000坪に及ぶノコギリ屋根工場跡地を舞台に、新たなコミュニティ拠点が誕生した。

2026年1月に設立された一般社団法人「対話と五感と庭」が手がけるプロジェクト『対話と五感と庭』である。

6月6日、7日の2日間にわたり開催されたオープニングイベントには、地域住民をはじめ県内外から多くの人が集い、「人と自然」「人と地域」「人と人」をつなぐ新たなコミュニティの第一歩となった。

 「みんなではぐくむ“まちの庭”」

会場となったのは、かつて毛織業で栄えた工場跡地。

代表理事のHIROさんは、祖母から受け継いだこの場所を「壊す」のではなく、「未来へ受け継ぐ場」として再生することを選んだ。

施設のコンセプトは、「対話」「五感」「人と自然とのつながり」。

「日常に対話を、対話を文化に。」を掲げ、ダイアログカンパニーDANROがこれまで育んできた理念を、”場”という形で具現化したプロジェクトだ。

運営を担うのは、HIROさんをはじめ、一児の母であり「DANRO CHILDREN」を主宰する和花さん、自然に寄り添った畑づくりやヴィーガン料理を提供する「こぼれたねり」代表の真奈美さん、アウトドアショップ「Superb」を営む慎太郎さんら、それぞれ異なる専門性を持つ個性輝く4人。対話の場づくり、子どもの居場所づくり、食と農の循環、アウトドア体験など、それぞれの強みを生かしながら目指すのは、「誰かが運営する施設」ではなく、「地域のみんなで育てるまちの庭」だ。

人が主体となり、対話を重ねながら少しずつ育っていく——そんな新しい地域コミュニティの姿が、一宮から始まろうとしている。

地域内外の”想いあるつくり手”が集結

オープニングイベントには、出店者も、この理念に共感する多彩な面々が集まった。

奄美大島に1300年以上伝わる伝統技法「泥染め」を用いたブランド「旭泥(あさどろ)」は、古着を自然由来の染料で染め直し、新たな価値を吹き込むアップサイクルを提案。化学染料を一切使用しない泥染めならではのやさしい風合いと肌なじみの良さが特長で、小さな子どもや敏感肌の人でも安心して身に着けやすいという。衣類を通じて心地よい暮らしを大切にしたい人や、子どもの健康を考える親世代、環境や身体への負荷をできるだけ抑えたいと考える健康・サステナブル志向の人々からも高い支持を集めている。

また、ネパールでコーヒー栽培やフェアトレード事業を展開する「FARMERS PASSION」が手がける「mol café」も出店。代表、池島英総氏が自らブースに立ち、ネパールの直営農園の森で栽培、収穫したスパイスを使用したこだわりのスパイスカレーを提供した。子どもから大人まで幅広い世代を魅了するその本格的な味わいにブースには長蛇の列ができるほどのにぎわいを見せました。

さらに、1961年創業の老舗日本茶専門店「真清園」も参加。日本茶の魅力を五感で味わえるひとときを提供し、お茶のある豊かな暮らしを提案。来場者は一杯のお茶をゆっくりと楽しみながら、日本茶文化の奥深さに触れる穏やかな時間を過ごしていた。

いずれも単なるよくあるマルシェの販売では物販ではなく、「暮らし」や「循環」「つながり」を大切にするブランドばかりであり、この場所が目指す価値観を象徴する存在となっていた。

『食べることは、生きること』

 映画上映と特別対談が問いかけた”命の循環”

2日目のメインプログラムとには、映画『食べることは生きること ~アリス・ウォータースのおいしい革命~』の上映会が行われた。

アメリカの料理人アリス・ウォータースの思想を通して、「食」を単なる消費ではなく、人と自然、地域社会をつなぐ営みとして描いた作品だ。 上映後には、千葉県いすみ市でコミュニティ「ブラウンズフィールド」を主宰する中島デコさんと、環境活動家、無肥料栽培家として活動している岡本よりたかさんによる特別対談が行われた。

映画の上映が終わり、開口一番、「なぜ、こんな当たり前のことを映画にしなければいけないんだろうね」と静かに語り始めた岡本さん

本来、食と暮らしは切り離せないものだった。しかし現代では、その当たり前のつながりが見えにくくなっているという。

その思いに呼応するように、中島デコさんは「本当においしい野菜と調味料があれば、それだけで十分」と穏やかに語った。その言葉には、素材本来の力を生かし、自然とともに生きる暮らしへの哲学が込められていた。

都会で5人の子どもを育てた後、自然豊かな土地へ移住し、人が集うコミュニティを育ててきたデコさんにとって、食とは栄養補給ではなく、人と人、人と自然を結び直す営みそのものだ。

二人の話に共通していたのは、「循環」という考え方だった。

畑で育った野菜を食べ、種を採り、保存食にし、次の世代へ受け継ぐ。

その営みを通して、人も育ち、地域との関係も育まれていく。

デコさんは、ブラウンズフィールドで学んだ人たちが農家として独立し、再び地域の仲間として戻ってくる姿を見守ってきたこれまでを振り返り

 「食だけじゃない。人も、地域も、すべて循環しているんです」と穏やかに語った。

デコさんの言葉を受け、岡本さんは「野菜は人が関わり続けることで命がつながる存在」と続けた。自然に任せるだけではなく、人が知恵を受け継ぎ、手をかけ続けることで、野菜の命は次の世代へとつながり、その営みが地域の文化や暮らしを未来へ受け継いでいく。二人の言葉は、食を育むことは、人を育み、地域を育み、未来へと命のバトンをつないでいくことでもあるという、大切なメッセージを来場者に届けていた。

地方創生は「大きな開発」ではなく、「小さな循環」から始まる

こうした考え方は、「対話と五感と庭」が目指す地域づくりとも深く重なる。

人が集まり、食を囲み、学び合い、それぞれの知恵や経験を持ち寄る。一杯のコーヒー、一冊の本、一つの畑。

そんな日常の小さな営みから対話が生まれ、人と人、人と自然、人と地域との新しい関係性が育っていく。

人口約38万人を抱える中核市・一宮市もまた、利便性の高い都市である一方、人と人とのつながりの希薄化や子育て世代の孤立といった課題を抱えている。

だからこそ、「対話と五感と庭」は単なるイベントスペースではなく、地域のウェルビーイングを育む”サードプレイス”としての役割を担おうとしている。

人口減少や地域コミュニティの希薄化が進む今、地方創生に必要なのは、大規模な再開発や新しい施設だけではないのかもしれない。

地域にすでにあるものを見つめ直し、人が集い、対話し、分かち合い、ともに育てていく。

そんな小さな循環の積み重ねこそが、持続可能な地域の未来をつくる——。

『対話と五感と庭』は、その新しい地方創生の可能性を、一宮から静かに、そして力強く発信し始めていた。【後編】は、代表理事のHIROさんに『対話と五感と庭』にこめた思いをを伺う。