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都心と地域を「電気・野菜・人」でつなぐ―森ビルが営農型太陽光発電で挑む“新しい都市循環”の形

2026/08/28

“地域活性”や“地方創生”という言葉が聞かれるようになって久しいが、それが都心部から地域への一方的なものになってしまっては、ただの自己満足になってしまう恐れもある。本当にその地域のために役立ち、循環していくことが求められる。

東京・赤坂のアークヒルズで毎週土曜日に開催される『ヒルズマルシェ』。野菜や果物などの農産物の他、ハチミツなどの加工品、服やアクセサリーなど、いろいろなブースが賑わいを見せる。

ヒルズマルシェ

8月1日に行われ『ヒルズマルシェ』では、一際注目を集めるブースがあった。並んでいるのは、みずみずしいキャベツやナス、トマト、ミョウガなどの夏野菜の他、アシタバも存在感を示している。

アシタバやキュウリなどの野菜

実はこの野菜たち、森ビル株式会社が所有する「森ビル筑西市桑山営農型太陽光発電所」の太陽光パネルの下で育てられた野菜なのだ。

野菜は営農型太陽光発電によって作られた

今回『ヒルズマルシェ』で初めて販売された。

森ビルが運営する営農型太陽光発電所

「営農型太陽光発電」は、農業を行いながら、その上に一定間隔に隙間をあけ設置した太陽光パネルで発電を行う仕組み。営農の継続や荒廃農地の再生による食料自給率の維持・向上と、再エネ発電を同時に図ることが出来る。さらに、昨今問題となっている「再エネ開発のための大規模な森林伐採、盛り土・切り土」などを伴わない、環境配慮型の再エネ開発の手法だ。

太陽光パネルの下で野菜が栽培されている

太陽光パネルで発電された再エネ電力は、オフサイト PPA(※)の形で森ビルの物件に供給される。太陽光パネルの下では、キャベツ、トマト、ナスをはじめさまざまな野菜を栽培している。

(※)再エネ電源の所有者である発電事業者(ディベロッパー、投資家等含む)と電力の購入者(需要家等)が、事前に合意した価格及び期間における再エネ電力の売買契約を締結し、需要地ではないオフサイトに導入された再エネ電源で発電された再エネ電力を、一般の電力系統を介し当該電力の購入者へ供給する契約方式。

電気を作るだけでなく土地を活用して野菜も同時に作る

今回、「営農型太陽光発電」を通じ、電力だけでなく「野菜や人」でも都心と地域をつなぐという森ビルの新たな取り組みについて、同社環境推進部の澤口京佑氏に話を聞いた。

森林を壊さない再エネ開発 荒廃農地を「発電所」兼「農地」として再生

森ビル・環境推進部の澤口京佑

――まず、「営農型太陽光発電」とはどのような仕組みなのでしょうか。

澤口氏(以下略)「簡単に言うと、農地で農業をしながら、その上に太陽光パネルを置いて太陽光発電を同時に行う仕組みです。現在、茨城県の筑西市、群馬県、栃木県の3か所に展開しています。今回マルシェで販売している野菜が育った『森ビル筑西市桑山営農型太陽光発電所』は2024年2月13日に運転を開始し、太陽光パネル数は約3700枚です。年間で、約790世帯分にあたる約310万キロワットの発電量を誇ります。この太陽光パネルの下では、約1.9ヘクタールの敷地面積でアシタバやトマト、キャベツ、ブロッコリー、キュウリ、ニンジン、ナスなど10種類近く栽培しています」

――大規模ですね。

3エリア合わせて約5ヘクタールの土地で営農型太陽光発電を行っている

「その他に、『森ビル桐生市新里町営農型太陽光発電所』では約1500枚の太陽光パネルで、年間約300世帯分にあたる約120万キロワットの電気を作り、約1.0ヘクタールの敷地面積でさつまいもを作っています。同じく、さつまいもを作っているのが『森ビル栃木市宮町営農型太陽光発電所』です。約2.2ヘクタールの敷地面積があり、こちらは約3600枚の太陽光パネル。年間約760世帯分にあたる約300万キロワットを発電しています。3エリア合わせて約5ヘクタールの敷地面積で、電気と農産物を作っています」

太陽光パネルの下で育てられているサツマイモ

■「エネルギーを使う側」の使命感 きっかけは地域貢献を叶える“営農型”との出会い

――なぜ森ビルが、地域での発電、そして農業に取り組むことになったのですか?

「我々は都心に多くの『ヒルズ』を展開しており、膨大なエネルギーを必要とします。昨今の脱炭素化の流れの中で、都心で“エネルギーを使う側”として、再エネ化を推進する使命があると考えています。実は、最初から営農型を目指していたわけではありませんでした。4年ほど前に、太陽光発電開発会社の『エコ革』さんと出会いました。エコ革さんは子会社に農業法人『株式会社エコ革ファーム」を持、営農実績もあったことから、そこで『営農型』という手法を初めて知りました。社会貢献ができ、発電所がある地域にも還元できる可能性がある。それなら『ぜひ一緒に営農型をやりましょう』と決まったのが経緯です」

森ビルと事業を協業しているエコ革ファーム

――通常の太陽光発電所と比べて、営農型にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

「大きなメリットは環境への負荷が少ないことです。一般的な大規模発電所は森林を伐採して土地を切り開くことも多いですが、営農型は『既存の農地』を活用するため、森林伐採の必要がありません。また、筑西市などの現場は、もともと高齢化などで手入れがされなくなった『荒廃しかけている農地』が多くありました。放置すれば雑草が生い茂り、近隣の迷惑にもなります。そこをエコ革ファームさんが買い取り、あるいは借り受けて農業を復活させることで、農地の再生と地域貢献、そして発電を同時に叶えることができるのです」

荒廃した土地を復活させ活用する

――ただ太陽光パネルを設置するだけではなく、そこから地域貢献や活性化につながるのですね。太陽光パネルの下で野菜はしっかり育つものなのですか?

「パネルの高さは3〜4メートル確保し、支柱の間隔も広く取っています。これは、大型の重機が入りやすく、しっかりと『農業を第一に』行える環境を整えるためです」

――重機も入るのですね。

「トラクターなどが入れる空間を確保しています。日射量についてもシミュレーションを行っており、パネルの隙間から十分な光が届きます。むしろ、最近の猛暑では日が強すぎて野菜が根腐れすることもありますが、パネルが適度な日除けになることで、逆に作業がしやすく、野菜にも良い影響が出るという副次的な効果も生まれています」

太陽光パネルの下はトラクターも入る高さが確保されている

――収穫された野菜は、これまでどのように活用されていたのですか?

「サツマイモなどは市場に出していますが、筑西市で収穫した野菜については、地元の『子ども食堂』への寄附を積極的に行っています。土地を貸していただいている地域の方々への恩返しの意味を込めて、まずは地域内で活用していただくのが理想だと考えています」

収穫した野菜は地域の子ども食堂へ

――今回、それをあえて『ヒルズマルシェ』で販売することにした狙いは何でしょう。

「ただ地域から都心へ電気を送るだけでなく、野菜や人を通じて都心と地域がつながる『循環型の施策』を作りたかったからです。その第一歩が、今回のマルシェでの販売です。都心の方々に、森ビルが地域と一緒にこういう取り組みをしていることを知っていただくきっかけになればと考えました」

営農型太陽光発電で作られた野菜が初めてヒルズマルシェに登場

■目指すは「双方向の交流」 都心と地域が互いに支え合う未来の共生モデル

――初出店の反響はいかがですか?

「びっくりするぐらい売れています! 開始2時間ほどですでに120人以上の方に購入いただきました。『太陽光パネルの下で収穫した野菜なんだ』と、皆さん興味深く説明を聞いてくださるのが印象的ですね」

ヒルズマルシェを通して都心の人々も営農型太陽光発電や地域の情報を知ることができる

――今後の目標について教えてください。

「今回、発電した電気だけでなく、収穫した野菜も都心へ送ることが出来ましたが、今後はさらに『人の流れ』も作りたいと考えています。例えば、ヒルズで働くワーカーの方々や地域のお子さん向けに、現地での収穫体験や環境教育を企画したいですね。都心から地域へ、地域から都心へ。それぞれが興味を持って足を運べるような関係性を築くのが目標です。発電規模についても、さらに拡大し、森ビルグループの脱炭素化の実現を目指して、この取り組みを加速させていきます」

大きなキュウリに興味津々の子どもたち

この日、私も子どもを連れてマルシェを訪れた。太陽光パネルの下で作られた野菜を手にとった子どもたちは、その立派な大きさと新鮮さに驚いていた。またブース前に置かれた「営農型太陽光発電」のパネルを見て、太陽光パネル下で野菜が育てられている様子に興味を持っていた。収穫現場から離れていても、こうした都心で実際に収穫した野菜に触れながら「情報を知っていく」ということは、相互の交流につながっていくのかもしれない。

「都心から地域へ、地域から都心へ」の流れを作っていく

都心のビルで使われる電気が、遠く離れた農地の再生を支え、そこで育った野菜がまた都心の食卓を彩る。森ビルが挑む「循環」の形は、単なる環境対策を超え、都心と地域の新しい共生の姿を示している。

(取材・文・撮影/コティマム)