鹿児島を訪れる楽しみは花だけにあらず。雄大な自然が育む食もまた豊かである。近年、注目されている黒牛とお茶 を宿泊や体験で満喫できるコースを案内――。
九州の最南端に位置する鹿児島県は、食の宝庫である。温暖な気候が育(はぐく)む農産物や数多の離島を含む広い海域で獲れる海産物。約400年前に琉球から養豚が伝えられ、畜産も盛んに行なわれてきた。
多彩な食材の中でも最近、魅力を大きく開花させたのが、ブランド牛の「鹿児島黒牛」だ。黒毛和牛の飼養頭数日本一(令和4年)を誇る同県では長きにわたって改良を重ね、昨年開催された「第12回全国和牛能力共進会」で過去最高の評価を受け、数々の賞を獲得。種牛の部では、最高位の内閣総理大臣賞に輝いた。
この鹿児島黒牛をしゃぶしゃぶとステーキで堪能できるのが『妙見温泉 おりはし旅館』である。同旅館副社長の有馬博明さん(62歳)は、その味わいに顔を綻ばせる。
「模様のように美しい上質なサシと赤身のバランスが精良で、お腹にもたれない。源泉掛け流しの温泉で疲れを癒し、霧島の焼酎や棚田米と共に味わってください」
もうひとつ、黒牛と共に味わいたいのが、お茶だ。霧島でつくられる「霧島茶」は鎌倉時代に京都の宇治から栽培法が伝わったとされ、霧深い気候と寒暖差から生まれる香りの高さに定評があり、海外にも輸出される。
有機栽培でお茶作りに取り組んでいる『ヘンタ製茶』の「霧島有機煎茶」は、今年1月、フランスの日本茶コンクールの煎茶普通蒸し部門で金賞を受賞。2代目の邉田孝一さん(60歳)は「日本の茶文化を広く伝えていきたい」と昨年、茶園内にティーテラスを開設した。霧島山麓の標高約250mの場所にある茶畑を眺めながら飲むお茶は格別である。さらに、昔ながらの「釜炒り茶」作り体験も、お茶に親しむ貴重な機会となる。