Webメディア『和樂web』と雑誌『和樂』より、オリジナル商品「KORIN飯椀(こうりんめしわん)」が発売。制作は、超絶技巧で知られる、石川県・輪島の漆芸集団「彦十蒔絵(ひこじゅうまきえ)」です。
2020年10月発売後、瞬く間に完売した「KORIN応量器(こうりんおうりょうき)」に続き、今回は日常使いしやすい飯椀をつくりました。上質な欅(けやき)の木地に、黒と本朱の漆があしらわれ、さらに琳派を代表する絵師・尾形光琳(おがた こうりん)を彷彿させる流水紋が、漆で描かれています。
「お椀は漆器を知る、最も身近な存在ですが、汁椀ではなく飯椀をつくったところがこだわりです」
そう語るのは、彦十蒔絵代表の若宮隆志(わかみや たかし)さん。輪島という土地柄もあり、お米に対して強い思いを抱いています。輪島は〝あえのこと〞という、田の神様を自宅に招いておもてなしをする伝統の祭礼(ユネスコの無形文化遺産)があるほど、お米を大切にしてきた地域なのだとか。
「お米は日本人にとって特別な存在です。神事にも使われますし、かつてはお金の代わりでもあった。私も子どものころは、ひと粒の米も無駄にしてはならないと、繰り返し教わったものです」
その情熱が込められたのが、この「KORIN飯椀」。機能的にも漆の椀は保湿性、吸湿性に優れ、ごはんの熱が逃げにくく、水分も調整してくれるのだとか。おひつをイメージすると、納得がいきます。
「茶碗より軽いのも手にしやすいですし、お茶漬けなどをかき込む際は、口当たりも優しい。茶碗を使っている人が多いと思いますが、この機会に、漆のお椀も試していただきたいですね」
椀の外側に360度描かれている印象的な文様は、これまでも若宮さんが幾度となくテーマにしてきた流水紋。尾形光琳が生み出したところから、光琳紋と呼ばれることも。
「お米と水は、密接な関係にあります。いい水がなければ、おいしいお米は育ちません。そういう意味では、ごはんに対して水の柄というのは、とても自然に受け入れられるものなんですね」
まるで植物の蔓のように、生き生きと描かれた流水紋も、漆によるものです。黒には白漆を、本朱には黒漆に松煙を蒔き、マットな仕上げに。試作を繰り返してたどり着いた、上塗りとの組み合わせはモダンで独創的です。また黒の椀の内側は「うるみ」という、本朱とは違う墨がかった赤を使い、黒漆と調和させました。
漆を通して、日本人にとっての米を、食を考えたい。そんな彦十蒔絵のメッセージが、この飯椀には込められているのです。
若宮さん曰く、流水紋が優れているのは「目に見えないものが、図案化されている点」にあるのだとか。光琳が放つ、そのアヴァンギャルドな発想に、日本人は惹かれ続けてきたのかもしれません。
実際に、グラフィカルで洗練度の高い流水紋は、現代の私たちから見ても、とても大胆でモダンな印象。酒井抱一(さかい ほういつ)といった琳派の絵師たちや、工芸品を手がける職人たちに大きな影響を与え、着物や屛風など、あらゆる生活用品のデザインとして採用されてきたのも、うなずけます。