
前編では、愛知県一宮市に誕生した新たなコミュニティ拠点『対話と五感と庭』のオープニングイベントの様子を紹介した。
築95年の古民家と約1000坪の工場跡地を活用し、「人と自然」「人と地域」「人と人」をゆるやかにつなぐこの場所は、多くの来場者にとって”地域の未来”を考えるきっかけとなった。
では、この場所はどのような思いから生まれたのだろうか。
後編では、『対話と五感と庭』代表理事のHIROさんに、その思想とこれから描く地域の未来について話を伺った。

全国の地域で『対話と五感と庭』のような取り組みを始めたいと考える人に向けて、持続可能な運営の考え方を教えてください。
「愛知県一宮市は、「モーニング発祥の地」として知られるまちです。
昔からコーヒーを飲みながら人と語り合う文化が、このまちにはあります。
だから僕は、一宮という場所で「対話」を軸にした拠点をつくることには、とても意味があると思っています。
僕たちが運営している「対話と五感と庭」は、カフェでも、公園でも、イベントスペースでもありません。人が集まり、人が対話し、人が育っていく”場”です。でも、僕はよく「場所は器でしかない」と話します。
建物をつくればコミュニティができるわけではありません。そこに集まる人たちがいて、関係性を育て、少しずつ空気をつくっていく。
だから同じ施設はつくれても、同じ場は二度とつくれないと思うんです。僕たちも、この場所をオープンするまで約1年半かかりました。
これからどう持続していくかは、正直まだわかりません。
でも、一つだけ変わらないものがあります。それは「対話」です」
なぜ『対話』を大切にされているのでしょうか?

「今回、「対話と五感と庭」は一般社団法人としてスタートしました。
今は理事4人とメインメンバーが関わりながら運営しています。
これからはクルー(会員)のみなさんと一緒につくる場所にもしていきたいと思っています。
僕は、最初に決めたルールがずっと続くことが持続可能だとは思っていません。
人は変わります。価値観も変わります。メンバーも入れ替わるかもしれません。
だからこそ、その都度話し合いながら、一緒に考え続けることが大切なんです。
例えば家賃一つとっても、一律である必要はないかもしれません。
売上によって変えてもいい。
ギフトという形で関わる人がいてもいい。
共通資本通貨「DANROコイン」もそうですが、お金そのものの考え方も含めて、僕たちは対話しながら考えていきたいと思っています。
僕自身、「こういうモデルをつくりたい」とか、「売上をいくらにしたい」という目標はありません。 それよりも、自分たちが本当に表現したいことを大切にしたいんです。」
この場所では庭で野菜を育て、近隣の人たちも立ち寄れる場となっているようですが、どのような庭を目指しているのでしょうか。
「「庭」という言葉には、僕たちなりの意味があります。公園は公共の場所です。
でも管理するのは誰か別の人。利用する側は「使わせてもらう」という感覚になります。
一方で庭は違います。自分たちの庭だと思えば、自然と手入れをしたくなる。
誰か任せではなく、一緒に育てたくなる。
だから僕たちは「まちの庭」という言葉を使っています。
開かれすぎず、閉じすぎず。ふらっと立ち寄れて、気づけば誰かと話している。
そんな曖昧さが、僕はすごく好きなんです。
今、庭では野菜だけでなく果物、ハーブも育てています。
これからはエディブルガーデン(食べられる庭)として、もっと広げていく予定です。
小学校が近いので、子どもたちが帰り道に寄って手伝ってくれたり、一宮高校の生物研究部や大学のゼミがフィールドワークに来たり、少しずつ地域との接点も生まれています。
一宮は名古屋のベッドタウンです。便利になる一方で、畑が減り、人とのつながりも薄くなりやすい。だからこそ、この場所には意味があると思っています。
都市の中でも自然を育て、人と人との関係を育てる。 都市の中で自然を育み、人と人、人と地域とのつながりがゆるやかに循環していく、そんな”アーバンパーマカルチャー”的な場所へと育てていけたらと思っています」
様々地域で個性的な独立系書店が注目されていますが、敷地内には、HIROさんが手がける本屋「風土水」もあります。この場所に込めた想いを教えてください。

「「なぜ本屋を始めたんですか?」と聞かれることがありますが、理由はとてもシンプルです。僕が本が好きだから。それだけなんです。
でも、せっかくやるなら本を売るだけでは終わりたくない。人と話をしながら、その人に合う本を選ぶ「対話選書」。旅人が本を置いていくシェア本棚。旅から帰ってきた人が体験を語る読書会。そんな、本を通して人と人がつながる場所をつくっていきたいと思っています」

「「風土水」という名前には、「風の人」と「土の人」が混ざり合って初めて風土が生まれる、という意味を込めました。星座や占い、そして自分自身の旅を振り返ると、僕は”水”のような存在だと感じています。人と土地、人と人、想いと想いのあいだを巡り、やわらかくつないでいく存在でありたい。そんな感覚から、この場所を『風土水』と名づけました。
地域の人だけではなく、外から訪れる人も混ざり合い、新しい風土が育つ場所になればうれしいですね。」

これから先、どんな場にしていきたいですか?
「10年後、20年後の姿を聞かれることがあります。
でも、正直わかりません。
未来を思い描くことよりも、今ここで誰と出会い、どんな対話が生まれるかのほうが大切だと思っています。
僕たちが目指しているのは、立派な施設をつくることではありません。
ここに関わる一人ひとりが、自分らしく生き、自分らしく表現できること。
その積み重ねが結果として地域を豊かにし、一宮というまちに新しい文化を育てていく。
そんな”街の庭”を、これからもみんなで育てていきたいと思っています」

前編で紹介したオープニングイベントでは、「食」「自然」「対話」を通じて、多くの人がこの場所に集い、新たなつながりが生まれていた。
今回のインタビューで印象的だったのは、HIROさんが繰り返し語った「場所は器でしかない」という言葉だ。地方創生というと、大きな施設や新たな事業を思い浮かべがちだが、本当に地域を育てるのは、そこに集う人々の対話と関係性なのかもしれない。
『対話と五感と庭』は、完成された施設ではなく、人が関わることで育ち続ける”街の庭”である。一杯のコーヒー、一冊の本、一つの庭、そして何気ない対話。そんな日常の小さな積み重ねが、人と人、人と地域を結び直し、新しい文化を育んでいく。
一宮で始まったこの挑戦は、地域資源を生かしながら持続可能なコミュニティを育てようとする全国の地域にとっても、多くのヒントを与えてくれる取り組みではないだろうか。
